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「あ、むくのお迎え」

「ん? ああ、俺が行ってくるわ。夕飯作って待ってろ」

「あ、じゃあおねがいします。何か食べたいものありますか?」

「ん? パスタ」

「わかりました。待ってますね」

荷物を置いたときに、思い出したように汰絽が呟いた。
その呟きに風太が声を上げる。
汰絽は助かった、という顔をして、風太に頼む。
それから夕飯のリクエストを取り、待ってますね、と満面の笑みで告げた。


「いってらっしゃい」

汰絽が思わずそう言って、風太は嬉しそうに笑う。
嬉しそうな笑い声に、汰絽は心が暖かくなるのを感じた。





玄関を出ると、風太は思わず立ち止まった。

待ってますね

満面の笑み付きのその言葉は、乙女でもないのに、風太の心に突き刺さった。
可愛らしい顔立ちに可愛らしいセリフ。
何もかも可愛らしいな、とか、デレデレとした考えが頭をよぎる。
何分か、立ち止まっていて、自分が外に出た理由を思い出して、風太は足を動かした。




風太がむくを迎えに行っている間、汰絽は夕飯の支度をする。
なんだか、支度をするのも楽しくて口笛を吹く。
包丁もリズムよく音を奏でた。
パスタを茹でるのも、盛り付けるのも楽しい。
早く帰ってこないかな、と考えたところで、手が止まる。
盛り付けていたサラダを見て、もっと綺麗にしよう、と手を加えた。
今日の夕飯は、いつもより気合いが入る。
自分の浮かれ具合に気づいた汰絽は、一人赤面した。





料理を机に運んだところで、むくのただいまーの声が聞えてくる。
汰絽は玄関へ小走りでむかい、むくを抱きしめた。


「おかえりっ」

「ひゃーっ、たあちゃんどうしたのー?」

「いや、なんか、ちょっと…。春野先輩もおかえりなさい」

「おう、ただいま」

少しだけ顔を赤くしている汰絽に風太は軽く笑い、むくは小さな手で抱きしめ返しながら頭にはてなマークを浮べた。
手、洗ってきてね
と、汰絽が告げると、二人は洗面所へ向かった。


「たぁちゃん、うれしそうだね」

「そうだな。機嫌いいな」

「ふふ、むくもうれしくなるー」

「そっか。よし、手拭けー」

「はーい」

汰絽の嬉しそうな様子に、むくもにこにこしながら手を拭く。
二人のにこにこの具合がそっくりだな、と思った風太は、微かに笑い自分も手を洗った。
それから、二人はリビングヘ向かう。
夕飯のいい匂いが香ってきて、むくはお腹を鳴らした。


「ふふー、あのね、たあちゃん。むくね、おえかきしたの。お花の絵かいたよ」

「そうなの? あとで見せてくれる?」

「うん! せんせい、いっぱいほめてくれたよ」

「良かったね。むく、おえかき上手だもんね」

「そうかなー」

「うん。上手だよ。よしっご飯食べよっか」

「はーい、おなかへったー!」

むくが自分の定位置についたのをきっかけに、汰絽と風太も椅子に座る。
それからいただきます、と告げ、夕飯に手を伸ばした。


「いつもより、ごうか!! 今日、なにかあるの? ふうた、たんじょうび?」

「俺? いや…、俺はもう終わったよ」

「いつですか?」

「五月五日」

「こいのぼりの日なの?」

「こいのぼり?」

「こどもの日のことですよ。鯉のぼり、上げるじゃないですか」

「ああ、なるほど」

こどもの日。
汰絽は風太の外見と、誕生日にギャップに小さく笑った。
それに気づいた風太は、ちらりと汰絽を一瞥する。
それからむくに誕生日はいつなのか聞く。


「むくはね、おかしもらう日!! は、はろ、うぃ?」

「ハロウィンか」

「うん!! たぁちゃんは、おひなさまの日」

「ひな祭り…」

「笑わないでください」

思わず拭きそうになった風太に、汰絽は先手を打つ。
それから、むくの頬についたソースを拭った。




「夕飯食べたら、書類提出してくる。それと、むくに伝える」

「はい。あ、むくほっぺにまたついてるよ」

風太に返事をしながら、むくのほっぺたからもう一度ソースを拭い笑う。
おいしい?と訊ねると、むくはおいしい、とピースした。



「ふーた、お風呂入る?」

「風呂? んー、ちょっと出掛けるから、またこんどな」

「んー、わかったぁ。一緒にはいろうね!!」

「おう」

むくが嬉しそうにするのを見て、風太も珍しく穏やかな笑みを見せた。
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