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「よかった。…これで、安心できた」
「まだ早いんじゃねえの?」
風太が言った言葉に風斗は笑う。
それから、書類に書きこみ風太に渡した。
その会話を聞いている汰絽も、楽しそうだ。
「アンタもマンションで暮らすんだからな」
「わかってるって。もう、風太はせっかちだなあ…。汰絽君みたく、おおらかになりなよ」
「おおらかって」
風斗の言葉に汰絽は思わず笑い、風太は溜息を吐いた。
それから受け取った書類を確認して鞄の中に片付ける。
汰絽は風斗との談笑を続けていた。
その様子は楽しそうで、風太は安心する。
「そういえば、風太。夏翔君とは仲良くしてんの」
「まあ、それなりに」
「夏翔君、顔出さないからまたお前にやられたかと思ってたよ」
「…うるせー」
風太がふいっと窓に視線を逸らしながら言うのを聞いて、風斗はこの子は、とため息を吐く。
汰絽は二人を眺めながら、小さく笑った。
「風太、汰絽君とむく君を頼んだよ」
「わかってるって。心配のし過ぎは禿げの素だぞ」
「はいはい。剥げませんよ。汰絽君、風太の面倒みてやってね」
「はい」
「ナマイキな…」
「じゃ、風太、後は任せたよ。眠たいから、そろそろいいかな」
「おう、今日中に提出する。土曜にまた来る。汰絽」
「はい。風斗さん、ありがとうございました」
そう会話して、汰絽と風太は病室を後にした。
二人は静かにエレベーターに乗り込んだ。
「安心したわ」
「安心…ですか?」
「おう。なんか、俺さ。お前の答え聞く前から、一緒に住む気満々だったんだよ」
「え?」
「マグカップ、同じ種類の三つ買っちまったんだよ」
「…ふふっ、なんか、嬉しいです」
「それはよかった。使ってくれよ」
「はいっ」
そんな会話をして、二人は玄関ホールに着く。
いつの間に連絡を取っていたのか、表に出ると丁度夏翔の車が停まった。
車に乗り込むと、夏翔がおつかれーっと声をかけてきた。
「風斗さんどうだった?」
「まあ、元気そうだったんじゃね」
「あ、そう。汰絽ちゃん、ほい。ジュース」
「あ、ありがとうございます」
汰絽は貰ったリンゴジュースを一口飲み蓋を締めた。
それを風太が脇からひょいっと取り、蓋を開けてガブガブと飲み始める。
「あああ!!」
「もーらい」
「貰うって言う前に飲んだー!!」
「いーじゃねえか。減るもんじゃねえし」
「確実に減ってますー。あああー」
「はいはい。後でアイスでも買ってあげますよ」
「アイスはもういいです。まだ残ってます」
「なんだよ。お前」
「汰絽ですよう」
「お前ら、チュウガクセイの次は、マンザイか」
「なんでやねん」
「今、たろちゃんからすごい低い声のつっこみを…」
とか、色々、くだらない会話をしているうちに、汰絽の家に近づいてきた。
むくの幼稚園の前をすぎ、汰絽の家に着く。
「俺も降りるから。じゃあなショウ」
「おう。たろちゃんもじゃあなー」
「ありがとうございました。さよなら」
夏翔に礼を告げ、車から降りると、風太も一緒に降りてきた。
そんな風太に、汰絽は首をかしげながら訊ねる。
「どうして春野先輩が?」
「あ? …いや、これから家族になるお二人さんと交流を深めようかと」
「…そうですか」
「はい。そうですが。どうしましたか、たろさん」
「いえ、特に。晩ご飯食べていきますよね?」
「おう」
二人はそんな会話をしながら、家に入った。
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