家族

翌日、むくを幼稚園に送ってから、家で支度をしていた。
パーカーを羽織り、普段の格好で風太が来るのを待つ。
むくがいないのは静かすぎて、汰絽はきゅっと腕を握った。
チャイムの音が聞こえ、腕を握っていた手の力をゆっくり抜く。
それから玄関へ向かった。
外に出れば、風太が空を見上げている。
出てきた汰絽に気づき、風太は小さく笑った。


「はよ。…どうした? さみしそうな顔して」

「おはようございます。…むくが居ないと静かで、どうも、」

「寂しかったのか」

「少しだけ」

「そっか。ほら、乗って」

風太に促されて、この間病院に行った時にも乗った車に乗り込む。
運転席には、夏翔が今回も歌っていた。
汰絽が乗り込んだ次に風太が乗り込んでくる。
隣に座った風太は一息ついた。
汰絽もつられて一息吐くと、夏翔がからからと笑う。
それから、行くか、と一言告げられた。


「お願いします」

「おう」

夏翔の返事とともに車が出されて、汰絽は車の窓を眺めてた。
窓の外は晴れ渡っていて、すっきりとしている。
通り過ぎる建物の間に時々見える木々が風に揺れていた。
一方、風太は夏翔と会話をしていて、汰絽はぼーっとしながらもそれを聞く。
話している内容は、風太のチームのことのようだった。
忙しいようで、その忙しさの対処法を夏翔が風太にアドバイスしている。


「そういえば昨日、風太が来ねえって下っ端どもが騒いでたぞ」

「あー…昨日はたろん家で夕飯食ってから家に居たな」

「なんか、お前ほんと丸くなったな」

「ァあ? 別に、んなことねー」

そんな会話が交わされて、汰絽は思わず笑ってしまった。
いつも大人のように見える風太が、夏翔と話しているときは子供のように見える。
それが面白くて仕方がない。
汰絽が笑っていたことに気づいたのか、風太がむっとした表情をした。


「たろ、笑うな」

「わらって、っません」

「笑ってるだろーが」

風太にほっぺたを摘ままれて、今度は汰絽がむすっとする。
すぐに指が離されて頬をなでられた。
何度も頬を擽られて、汰絽は身をよじる。


「拗ねるな」

「拗ねてませんー」

頬を撫でられている途中、車が揺れて、風太が汰絽に覆いかぶさった。
思わぬアクシデントに汰絽は窓ガラスに頭をぶつけた。
そして風太は今の状況に目を見開いている。
自分の腕の中にいる汰絽は、思っていたよりも小さい。
強く抱きしめたら、壊れてしまいそうだと思った。


「いたッ…」

「…」

「春野先輩?」

「だ…大丈夫か?」

「はい…」

自分と風太の距離の近さに気づいた汰絽は顔を赤くする。
その赤面した汰絽を見た風太は窓についていた手を離して元の位置に戻った。
軽い気まずさが押し寄せて、夏翔は思わず咳ばらいする。
その咳ばらいに、二人がほっと息をついた。


「…中学生のカップルか」

「うっ、うるせえ!!」

夏翔の一言に風太が怒鳴って、風太も少し赤くなっていることに汰絽は気がついた。
顔を少しだけ赤らめた風太が面白くて、汰絽は小さく笑った。
それに気づいた風太が、呆れたように汰絽に言う。


「何笑ってんだよ。たろ、今日笑ってばっかだな」

「春野先輩が、面白いから…」

「俺は面白くねーよ。お前の拗ねた顔のほうが面白い」

風太はそう言ってから、汰絽の頬を再度ぶにっと潰す。
頬を潰された汰絽は、小さな手を一生懸命使って風太の手を剥ごうとする。
けれど力の差というものの所為で、汰絽の努力は報われなかった。
ふがふがと止めて、と言う汰絽に風太はげらげらと笑う。
そして、そのやりとりは、夏翔の着いたぞーの一言で終止符を打った。

車を降り、病院内に入ってから汰絽の頭をわしゃわしゃと撫でる。
猫っ毛が絡まって大変なことになった。
その猫っ毛をほどこうと、汰絽は手で髪を梳く。
病院に入った途端、緊張した。
汰絽はその緊張が解れたことに気づき、心の中で風太に礼を告げた。


「俺もいていいんだよな?」

「はい。居てくださいな」

「おう」

風太の問いかけに、汰絽はきゅっと笑顔を作る。
その笑顔に、風太は笑い返し、二人は風斗の病室へ向かった。
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