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二時間授業をさぼり、そのままむくを迎えに行くことになった。
杏は、用事があるから、と五時間目の途中で帰宅した。
教師に見つかることもなく、学校を抜け出す。

幼稚園につけば、風太の姿を確認して、嬉しそうなむくが出迎えてくれた。
先生に挨拶してから、三人は家へ向かった。
むくの右手を風太が握り、汰絽が左手を握る。
小さな左手を汰絽はしっかりと握った。


「春野先輩、夕飯食べていきますか?」

「おう。いただく」

「ふうたもご飯一緒なの?」

「そうだぞ」

「やったー!!」

喜ぶむくと一緒に手をぶらぶらさせて歩く。
家に着けば、一番にむくが駆け込んでいった。
手、洗ってね
と、後ろから声をかけると、はーいっといい返事が返ってくる。
それに風太と二人、笑いながら洗面所へ向かった。


「夕飯何?」

「ビーフシチューにしようと思ってます」

「おお、楽しみだな。何か手伝おうか?」

「…じゃがいもとか、切れますか?」

「なめんなよ。それくらいできる」

「じゃあ、お願いします」

汰絽が笑いながら冷蔵庫から食材を出すのを見て、風太も思わず笑った。
ほわほわと愛らしい笑みは、周りを柔らかにするようだ。
ほわほわの汰絽から食材を受け取り、包丁を渡される。


「むくは何してればいーの?」

「んー、DVDでも見てる?」

「そうするー!! おいしいの作ってね!!」

「うん」

むくに手を振り、料理をする手を進める。
隣では風太がジャガイモやニンジンの皮をむいている。
その慣れた手つきに少し驚いた。


「料理、上手じゃないですか」

「あー? めんどくさいからコンビニ行くんだよ。近いし」

「体に悪いですよ」

「心配するやつがいねえからな、別に」

「…」

汰絽がじとっと見つめてくるのを見て、風太は軽く笑った。
その笑いからは何も読み取れなくて、汰絽は手元に目を移す。
時々感じる、風太の無気力さ。
それは諦めのような気がして、汰絽は眉をひそめる。


「心配してくれる人、いますよ」

「居なくても、俺は構わないんだ」

「…そんな、そんなこと、寂しいですよ」

「寂しい?」

「…心配しちゃ、ダメですか?」

「…わかったよ。そんな悲しそうな顔するな」

風太に言われたとおり、汰絽は悲しそうな顔をしていた。
本人にはわかるはずもなく、汰絽は首を傾げる。
そんな汰絽に、風太は苦笑した。
それから、切り終わった野菜を鍋に移す。









「いただきます」

夕飯はビーフシチューとサラダ。
先ほどのしんみりとした空気はすぐにどこかに行き、楽しい夕食になる。
むくが嬉しそうにしていると、汰絽もなんだか嬉しそうになった。
風太はその様子を眺めて安心した。
先ほどの、汰絽の悲しそうな顔が頭から離れなかった。
悲しそうな顔より、嬉しそうな顔の方が全然良い。


「ふうた、お泊りする?」

「ん? 明日も学校あるからな」

「そっかー。今度、お泊りしてね」

「おう。あ、たろ、明日午前中行く予定だから。学校休むことになるぞ?」

「はい、構いません」

はい、と答えた汰絽はむくのほっぺについたビーフシチューを拭き取る。
風太はその様子を眺めながら、サラダを皿に移した。
母親の様な仕草は、いつ見ても柔らかく温かいものだ。


「たぁちゃん、どっか、行くの?」

「ん? ちょっとね」

「うん!! お土産ほしいなー」

「お土産? ふふ、じゃあ、お菓子買ってきてあげるね」

「わーい!!」

食事が終わり食器を運べば、もう八時を過ぎていた。
風太はそろそろ行くわ、と一言告げ、汰絽も返事をする。



「食って帰るだけになって悪いな。今度、外食連れてく」

「いえ、そんな…。むくも喜んでたし、その、有難うございました」

玄関で話しているとた、汰絽が軽く頭を下げる。
そんな汰絽の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「いずれは外食行く予定だったから、三人で行こうな」

「あ、…じゃあ、よろしくお願いします」

汰絽と風太が話しているのを聞いてむくが嬉しそうにしてる。
風太がどうしたのか、と尋ねると、むくは内緒、と答えた。
首をかしげながら、汰絽を見れば、汰絽も同じように首をかしげていた。


「じゃあ、明日。十時に迎えに来る」

「はい」

さよなら、と挨拶をして、汰絽は風太を見送った。
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