3

「寝ちゃうんですか…?」

汰絽の寂しそうな声が聞こえてきて、風太は目を開けた。
可愛らしい、甘えたな声。
そう思い、見上げれば、汰絽の瞳がうるうるしている。


「泣いてるのか」

「ん、…いえ、目にゴミが…」

「取ってやる」

くいっと顎を捕えて上を向かせたら、汰絽の顔が一気に真っ赤になった。
そんなこともお構いなしに、風太は顔を近づけて、汰絽の猫のような目の中をのぞき込む。
どうやら睫毛が抜けて目の方に入り込んでいたようだ。


「痛いか」

「少し…、と、取るなら、早く、してください」

「おう」

そっと、目に入ろうとしてる睫毛を摘まんで取り除けば、汰絽の瞳から涙が零れた。
綺麗だ、と思った涙がぽろぽろと。
その涙を親指で拭えば、汰絽は息を吐いた。


「ありがとうございます」

「ああ。にしても、杏達遅いな」

「そうですね」

態勢を元に戻して、そう会話していたら屋上の扉が開いた。
杏と好野が楽しそうに会話しながら入ってくる。
おっまたせー
と、陽気な声に、風太は眉をひそめながら訊ねた。


「遅かったな」

「んー? はるのんのご飯をコンビニに買いにいってたんですー」

「へえ」

風太は杏からコンビニの袋を受け取り、汰絽は好野から鞄を貰った。
好野にありがと、と伝えると、楽しそうなどういたしましてが返ってきた。
受け取った鞄の中から取り出した弁当箱を開く。
箸を取り出し、食べ始めると、隣から手が伸びてきた。


「卵焼き貰い」

その声とともに綺麗な形の卵焼きが奪い去られていく。
風太はひょいっと口の中に卵焼きを放り込んだ。
あっという間に消え去った卵焼きに、汰絽は風太のほうへ視線を移した。


「甘めなんだな。うまい」

「むくが好きなんです。…けど、だし巻きも作れますよ」

「そうか。今度はだし巻きな」

「はい」

そんな会話が交わされて、昼食が減っていく。
一番はじめに食べ終わった風太はまたアスファルトの上に寝転がった。
二番目の杏は携帯を開いて、好野に見せびらかしてる。
好野も食べ終わり、杏の携帯をのぞいているうちに、汰絽も昼食を終えた。


「春野先輩、午後、出ないんですか?」

「…そのつもりだけど?」

「僕も、一緒していいですか?」

「お前、授業サボったりするのか」

「たまにですが…」

「そうか。意外だ」

「よく言われます」

そう言って笑った汰絽に、風太も思わず笑った。
それから、汰絽は、弁当箱を片付けて、ブレザーのポケットをあさる。
何をしているかと思ったら、ポケットの中から袋詰めされたクッキーが出てきた。


「なんだ、そのクッキーは…」

「昨日、作ったんです。食べますか?」

「食う」

袋を開けてクッキーを食べる。
苺ジャムが乗っていて、甘い。


「お前、洋菓子も作れたんだな」

「家事全般、料理全般ならなんでもできます」

「すげー。今どきの女子よりも家庭的だな」

「そうですか?」

「おう。嫁に欲しいぐらいだ」

「…オヤジ臭いです…」

「うるせー」

風太の発言に驚きながらも、汰絽は笑った。
口に含んだクッキーの甘さも心地よい。
チャイムの音が聞こえて、好野が慌てて立ち上がる。


「よし君、今日、午後出ない」

「まじか。んー、わかった。ノート取っておくな」

「うん、お願いします」

好野がピースしながら屋上を出ていくのを見て、汰絽は微笑した。
それから横になり、目を瞑った風太を眺める。
整った顔が、とても綺麗で、思わずため息が出る。


「汰絽ちゃんって、サボったりするんだね」

「…たまにですよ」

「そっかあ。よし君は逆に真面目さんなんだね」

「僕よりは…」

「へえー。汰絽ちゃん、俺席はずそうか?」

「いえ、構いませんよ?」

「そう? じゃあ、一緒させてもらうねー」

杏がそう言って笑うのを見て、汰絽はこくん、と頷いた。
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