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屋上へ辿り着けば、青空が広がっていた。
汰絽は嬉しそうに眼を輝かせ、好野も心地よさそうに伸びをする。
好野につられたのか、杏も伸びをして、風太は汰絽の嬉しそうな顔を眺めていた。
「不良さんいないね、よし君」
「そうだな。ここで集会開いてるって聞いたんだけど、ガセだったのかな?」
「そうかもね。広いねえ、屋上」
「そうだな」
汰絽と好野がほわほわと和やかな会話している。
放っておくと何時までも続きそうな会話。
風太と杏はその会話を終わらせるように二人の背中を押して、フェンスまで寄った。
「たろ、座りな」
「はーい」
「よし君も座ってー。いつまでも立ってないの」
「はい」
四人はフェンスに背中を預けて座る。
風太の隣に汰絽、汰絽の隣に好野、好野の隣に杏という順番で座っている。
綺麗な間隔で横一列に並んだ四人は一息ついた。
「春野先輩」
何分かゆったりとした汰絽は隣に座る風太に声を掛けてみた。
おざなりな返事が返ってきて、汰絽はぷく、と口を膨らませる。
膨らんだ頬を見て、風太は思わず噴き出した。
「、金魚みてえ」
「先輩、おざなりです」
「はいはい。なんだよ」
「呼んだだけですよぉ」
「お前なァ」
「…元気そうでなによりです」
汰絽がほわっと笑いながらそう言うのを聞いて、風太は気がついた。
朝、風斗の病態について話したとき、汰絽に元気を出せと言った。
その時、元気が無かったのは汰絽ではなく、自分自身だったことを。
汰絽の思いを感じ、風太は珍しく柔らかく笑った。
その笑みに、反応したのは、もちろんのこと、杏。
「あ、はるのんにあるまじき笑い方」
「あァ?」
「春野先輩、不良さんみたいです」
「いや、汰絽、春野先輩は不良さんだ」
好野の突っ込みに、汰絽ははっとして手を叩いた。
やっと風太が不良だということを思い出したように、好野がはじめに笑い始め、それにつられた風太と杏も笑う。
「ほんと、汰絽ちゃんって面白いよね」
「それほどでもないですー」
「面白いよー。ところで、お昼食べなくていいの?」
「はっ忘れてた…よし君、お弁当教室だよね」
「あ、そうだな、とってくるよ。鞄の中だよね?」
「うん、お願い」
汰絽の頼みに、好野は頷いて立ち上がった。
同じように杏も立ち上がり階段へ向かう。
杏も同じように立ち上がり、好野の後を追うように階段へ向かっていった
「あん先輩もお弁当ですか?」
風太にそう問いかけると、風太はさあ、と一言。
汰絽の問いかけは風太にとっては重要ではないのか、風太は突然、汰絽の頬を軽く撫でる。
その指にはてなマークを浮かべれば、風太は軽く笑って汰絽の頬から指を離した。
「…?」
「昨日、むくと相談したか?」
「あ、…はい。…ちゃんと話し合いしました」
「そうか。良かった」
「近いうちに風斗さんのところ、行きたいんですが。いいですか?」
「ん? ああ、明日行くけど、お前も行く?」
「お願いします」
風太の言葉に汰絽は頭を下げた。
顔を上げれば、風太が笑っているのが見える。
今日は春野先輩、やけに笑う日だな、とか、考えながら、汰絽も笑みを浮かべた。
「今、結果がどうだった聞くのは、ダメだよな」
「…どうでしょうか」
「いや、明日俺も一緒に聞くことにする」
「はい」
風太は汰絽の頬をもう一度撫でてから、アスファルトの上に寝転がった。
頭の下で腕を組み、目を瞑る。
今にも寝息が聞こえてきそうな状況。
汰絽はそんな風太を眺めて、それから空に視線を移した。
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