はじめまして、僕の愛しの甥っ子

さようなら、はじめまして





六十里汰絽が自分の甥と出会ったのは、両親と姉夫婦が亡くなった時だった。
汰絽が12歳、甥が0歳の時、2人の両親は、大きな衝突事故で命を失った。
両親の遺体と姉夫婦の遺体が並んでいるのを、警察の霊安室で眺めることしかできなかい。
質素な部屋に彼らが並んでいる。
もう動かなくなった、母と父を眺める。
優しい笑顔はもうない。
唐突過ぎて、何も考えられない。
地面からのひんやりとした風が汰絽を蝕んでいった。


「…昨日まで、幸せだったのに…」

小さく洩らされる言葉も、汰絽の中では明確に意味を持たない。
靄がかかったように、言葉の意味さえ考えられなくて、ただ、吐き出す息の音だけを聞いていた。
母の笑った顔、父の怒った顔、姉の楽しそうな顔、すべてが靄がかかっている。


そんな中、音を立てながら慰安室に入って来たのは、何かを抱いた警官。
汰絽はそっとその人の腕に目を向けた。


「汰絽君」

「春野さん」

春野さん、と呼ばれた警官は優しく汰絽を呼ぶ。
その優しい声に汰絽は春野の腕から目を離し視線を春野に移す。
春野は汰絽に聞こえるくらいの小さな声で、腕の中のものを説明し始めた。


「汰絽君、お姉さんにお子さんがいることは知ってるよね…?」

「こども?」

「そう。ご両親から聞いてるよね?」

「うん。今日、お姉ちゃん迎えに行くって。その子と会わせたいって」

「そう…。それでね、そのお姉さんの子供なんだけど…」

「ほにゃ」

ほにゃ、と温かい、可愛らしい声に、汰絽は目を開いた。
春野がそんな汰絽の様子に驚きながらも小さく微笑む。
暗い霊安室の中、汰絽がほにゃという一言に涙を浮かべたことが嬉しかった。
両親の事故を聞いた時から、泣きもせず自分たちの言葉を聞いた汰絽。
春野は、やっとこうして涙を流せる汰絽を見て安心した。


「汰絽君、だっこできるかな?」

「ん、できる、むく、むくおいで」

「むく?」

「うん、お姉ちゃんが、むくって呼んでた」

「そっか、汰絽君、その…」

「春野さん、僕とむくはこれからどうすればいいの、むくも眠いだろうし…」

「そうだね。ああ、君のおばあさんが迎えに来てくれたよ」

「おばあちゃん?」

「うん、玄関の方にいるから、今日は…」

「春野さん、ありがとう」

春野からむくを受け取った汰絽は、流れていた涙を止めるように笑って、春野に礼を伝えた。
それから、小さな体でむくを守るように抱きしめて祖母のもとへ向かう。
そんな後姿を見て、春野は自分の家にいる我が子を思い浮かべた。
最近笑わなくなった、愛おしい我が子を。


「気を付けて」

と、呟いた言葉は、廊下で木霊した。





“春野”と汰絽が出会うまで、あと3年のこと。
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