ふわっふわ
「…」
「おはようございます」
「お、おう…なんでお前俺の上にいるんだ」
「…なかなか起きないから。もう9時ですよ」
「…まだ9時じゃねえかあー…」
「うちでは土日は8時起床です。朝ご飯ですよ」
「…わかったよ」
「布団、脇に寄せるだけでいいですので、お願いします」
「おう」
ひょい、と汰絽を持ち上げ退かし、風太は布団を綺麗に畳んだ。
ほかの二人はもうリビングに行ったのか、いない。
汰絽も準備してきます、と告げ、キッチンへ向かった。
布団を脇にずらしリビングに行くと、三人はテーブルについてる。
「ふうたおはよお」
「おはよ」
むくと結之の挨拶に、おう、と返し、空いた所に腰をかけた。
朝ご飯は、卵焼きと鮭と味噌汁に五穀米。
「じゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
むくと結之の声に、風太もいただきます、と言い、箸を取った。
「あ、春野先輩、午前中、家事を済ませたら公園に行こうと思ってるんですが…先輩も来ます?」
「公園?」
「はい。桜も咲いてるし、ちょっと遊びに行こうかと」
「おう。行く。だったら途中で食いもんでも買ってこうぜ」
食いもん、の一言に反応したむくは嬉しそうに声を上げた。それに風太が軽く笑う。
「お菓子良い? むう、わたあめたべたいなあ」
「いいよ、買おうね。ゆうちゃんは何がいい?」
「ゆうのも、わたあめがいいな」
「うん、春野先輩は何買いますか?」
「俺は行ってから決めるわ」
「はい。むく、ゆうちゃん、ご飯残しちゃだめだよ」
「はーい」
「お休みなのに、制服って、ちょっと面白いですね」
「そうか?」
「はい」
むくと結之が手をつないで前を歩いてるのを汰絽は嬉しそうに見つめていた。
風太も同じように二人を眺める。
汰絽の言っていた家事は直ぐに終わり、お手製の弁当を持って家を出た。
途中、スーパーでむくと結之の綿あめなどを買い、それを弁当と一緒に風太が持っている。
「むく、元気だな」
「はい。もっと小さい時から元気でしたよ」
「へえ。まあ、これからだしな」
「そうですね。ふふ、なんか春野先輩、おじいちゃんみたいです」
「たろは猫みたい」
「いーんです。にゃんこは可愛いので」
「はいはい。お、結之、前向いて歩きな」
「うん」
用水路に興味を示し覗きこみながら歩く結之に注意をしながら、風太は汰絽を歩道側に寄せた。
車が通るわけでもなく、穏やかな空気が流れている。
「あ、ここ曲がったら到着です」
「おう」
汰絽が指さしたところを曲がったら、すぐに公園が見えた。
桜が綺麗に舞っていて、ピンク色の絨毯みたいになっている。
むくと結之が走って入っていくのをみて、風太と汰絽も少しだけ早歩きになった。
「ここ、あんまり人が来ないんです」
「そうだな。もっとちびっこがいると思ってた」
「でしょう? 穴場なんですよ」
「にしても、桜すごいな」
「絨毯みたいです」
「そうだな。俺も思った」
むくと結之はブランコに駆け寄って、楽しそうに遊んでいる。
二人はすぐ傍のベンチに腰を掛けた。
汰絽はデジカメを取り出して、写真を撮り始める。
「どれくらい撮ってるの」
「一日一枚は必ず撮ってます」
「じゃあ、かなり溜まってるんだろうな」
「はい。…むくの成長を見てくのは、もう僕しかいないから。出来る限り残してあげたいんです」
「…そうか。…たろさん、俺も一緒に見ていきたいんですが」
「? どうぞ」
「お前、軽いなー」
「そんなことないです」
「お、確かに。朝乗ってた時、結構重かったもんなー。実がぎっしり詰まってんのか?」
「ひゃ、ふひゃっ、脇腹はだめです!!」
「はは、おもしれー」
むう、とむくれた汰絽に大笑いし、ブランコで遊んでいるむく達を眺めた。
2人はどっちが高くなるか、競っているようで、きゃっきゃとはしゃいでいる。
「…春野先輩」
「どうした?」
「一緒に、見ててくださいね」
「…おう」
汰絽が、少し唇を噛みしめたのを見て、風太は息をのんだ。
猫の様な瞳が少しだけうるんでいた。
その様子が何となく、強いライオンのようにも見える。
「猫なのにライオン…」
「?」
「いや、なんでもない。たろはブランコに乗らなくていいのか?」
「いいんですー」
「押してやるよ?」
「…お願いします」
少しだけ照れるように笑って、汰絽はブランコの方へ向かった。
風太もその後ろからついて行き、ブランコから下りたむくと結之の頭を撫でる。
ブランコに座った汰絽の小さくて、それでいて頼もしい背中を押した。
「どうだ、高いだろ」
「ふぎゃあぁ」
「たぁちゃんすごーい!!」
「たろちゃん、すごーい」
「止めてほしいか?」
「ひ、うっ、たかっ」
「お、たろが泣く。よしよし、いま止めてやるからな」
「ううー」
ようやく止まったブランコから降りた汰絽は、ふらふらしながらベンチに戻っていった。
風太も汰絽の後ろをついて戻る。
元気なちびっこ2人は今度は滑り台に向かっていた。
「うう、吐きそう」
「ん? 吐くか? …よし。だったらトイレで吐いてきな」
「は、吐きません!!」
「そう? あ、むく達砂場で遊び始めた」
「あ…、もう少ししたらお昼にしますか」
「おう」
そのあと他愛のない会話を続けていたら、いつの間にかむくと結之が戻ってきていた。
手を洗いに行こうか、と水飲み場に行く。
「はい、タオル。ゆうちゃんも」
「ありがとおー」
「ありがと」
「先輩、タオルです」
「おう」
手を拭いて、元のベンチに戻る。
それから、レジャーシートを敷いて、座った。
むくと結之は嬉しそうに身を乗り出していて、汰絽はそれに応えるようにお弁当箱をだす。
運動会とかで使うようなお弁当箱で、一段目にはおにぎり、二段目は卵焼きなどといったおかず。
「むうね、たあちゃんの作るたまごやき好き」
「そう? 嬉しい」
「あとね、ハンバーグも」
「たろも好きだよ、ハンバーグ」
ゆったりとした昼下がり、むくは嬉しそうにお弁当を食べていた。
結之も同じように、こくこくと頷きながら食べている。
桜の花びらがひらひらと舞っていて、風太は顔を上げた。
「あ…、汰絽」
なんかの拍子で落ちてきたのか、花びらだけでなく花がぽんと汰絽の頭に落ちた。
とっさにカメラを取って、汰絽を激写する。
「…なんですか?」
「あっ、たろちゃん、お花ついてるよ」
結之に言われて、やっと気づいたのか花が乗っているところを探る。
なかなか花を見つけることができず、風太がそっと髪に触れた。
すると、ふわりと花が舞う。
「取れた、ほら、結之」
結之にその花を渡した。
結之は嬉しそうにその花を見て笑う。
その様子を微笑ましげに見てから、風太は汰絽の髪を撫でた。
「?」
「ふわっふわだな。お前の髪」
「そうですか?」
「おう、そう言えば、むくもふわふわしてたな」
「そお?」
「そうそう」
むくが自分の髪を小さな手で触れる。
結之も気になったのか、むくの頭に手を伸ばしていた。
「ふわふわー」
「そおかな? ゆうちゃんもふわふわだよお」
「むくちゃんの方がふわふわだよ」
と、かわいらしい会話を始めた。
汰絽もその会話に笑い始めて、そっと写真を撮る。
風太も同じように笑い、携帯で写真を撮っていた。
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