恋人のなりかた

安曇が買い物をしているうちに、椿は映画を見ていて疑問になったことをロイに聞いてみようと、口を開く。


「ロイさん、…恋人って、どうしたらそうなるの?」

「え? …恋人っ?」

いきなりの問いかけにロイは、顔を赤くした。
椿の純粋さを思い出し、あたりさわりのない言葉で説明する。


「好きって気持ちが大きくなったら、じゃないかな」

「大きく?」

「恋ってわかる?」

「さっき、女の子がしてたの?」

「うん。胸が痛くなったり、えっと、その人のことがすっごく大好きになることかな。いつも傍にいたいって思ったり、幸せになったり」

椿が一瞬考え込んで、俯いた。
その様子に、ロイは少し焦りながらも見守る。
なんだか、自分の子供が成長していく感じでくすぐったい。


「ロイさんも、さぁさんに恋してるの?」

「え…?」

「初めてあったとき、しぐれさんが、さぁさんはロイさんのこと恋人ってしょうかいしてた」

「そうだったね、そうだよ。俺はさぁのこと、好きだよ」

「…僕、ロイさんもさあさんも好き」

「それはちょっと違うかな。…たぶん、椿君が俺や秋雨を好きなのは、きっとお友達とか、家族に対する好きだよ。きっと」

「家族…」

「そう。椿君は、俺やさぁと違った気持ちを持った人がいるの? 特別な、人が」

そう、遠まわしに椿に尋ねれば、椿の頬が一気に赤くなった。
どうやらやっと理解したようで、ロイはほほ笑ましくてほっとする。


「椿君、その特別な人って時雨さんかな?」

そっと尋ねてみれば、椿が小さく頷いた。
椿の頭を撫でてやれば、余計に赤くなる。


「…どうして、好きは幸せなのに、胸が痛くなるの?」

「椿君は、胸が痛くなるの?」

「うん、…きゅって、痛くなる」

「…それは、きっと…。すごく、好きだからじゃないかな」

「すごく、好き?」

「そう。俺も、さぁが優しくしてくれたりすると、痛くなるよ。きゅうって」

「おんなじ」

「そう。同じ。恋人とほかの人とはそこから違うんだよ。きっと」

「…ありがと、ロイさん。僕、わかった気がする」

「よかった。でもここから先は、2人のことだから、俺は何も出来ないよ? アドバイスぐらいしか…」

「ううん、大丈夫」

椿が、大丈夫、とたくましい声を出した。
普段の椿からは珍しい表情をしていて、ロイは少しだけさみしい気持ちになる。
ようやく、話に収集がついた。
安曇が沢山の荷物を持って来たのを見て、2人は静かに笑った。
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