しあわせ
「まっくら」
「そうだよ。大丈夫? 怖くない?」
「へいき…」
「あ、安曇君、ちょっと椿君と待ってて、チケットと飲み物とか買ってくるね」
「はい。ここにいますね」
安曇と椿は壁に寄り掛かって、ロイを待った。
「時雨さんの傍にいるのは心地いいですか?」
なんとなく、椿にそう尋ねれば椿は首をかしげた。
それに安曇も首をかしげる。
「ここちいいって、幸せってこと?」
「まあ、だいたいそんな感じ」
「なら、ここちいい…。しぐれさんの隣は、しあわせ。…あずみさんは、しあわせじゃないの?」
「…どうして?」
「あさ、かなしそうだった」
「…起こしに来てくれた時のことですね」
頷いた椿に、安曇は思い返した。
そう言えば、若葉の夢を見た…と思いだして、安曇は顔をしかめる。
椿はそれに気付いて、安曇の手を取った。
それから、きゅっと握りしめる。
「しぐれさんも、ときどき、そんな顔するの」
「時雨さんもですか?」
「うん。雨がふったときとか」
「雨…」
椿が悲しそうな顔をしたのを見て、安曇は焦った。
ここで泣いてしまうんじゃないか、と。
けれど椿は直ぐに表情を戻した。
「だれかに手をにぎってもらうと、きっと幸せになれるとおもう」
「幸せ…」
「…僕は、しぐれさんから教えてもらったから」
「…ありがとうございます。俺も、椿君から教えてもらいました」
「うん」
椿は握った手にきゅっと力を入れてから離した。
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