映画
「まあ…、時雨さんは椿君と出会えたから立ち直れたんだよ。椿君は、時雨さんにとって、一番の宝物だからね」
視線をロイに戻せば、鏡越しに目が合った。
笑いかけられロイの言葉に頬が熱くなるのを感じる。
「安曇君、こんなこと言うのは、薄情かもしれないけど…」
と、言葉を選んで、少しだけ会話のペースが落ちた。
安曇はロイの言葉を待つ。
「過去にしがみついているのは、きっと辛いよ。…これは、俺が経験したから言えるんだけど」
「経験…」
「そう、安曇君の話、さぁから聞いたんだけど、俺も似たような状況だったから」
「ロイさんも、俺と同じように大切な人を失ったんですか?」
「うん、さぁと出会ってから、俺は立ち直せたから…」
ロイがそれ以上言わないのを、安曇は自分のためだと、と受け取った。
ここから先は、自分で見なければいけない、と。
それから、ロイが鏡越しで微笑んでいるのを眺めた。
「映画でも見に行こうか」
「えいが?」
突然の提案に、椿が首をかしげた。
映画に興味を持ったらしく、目を輝かせている。
「映画は、…画面が大きくなった感じ」
「がめん?」
「テレビの映像のことを画面っていんですよ」
「大きいテレビ…?」
「たぶん、そんな感じ」
安曇が椿に説明する様子にロイは笑い、安曇も自分の必至さに思わず笑った。
椿は説明を聞き、理解したのか窓の外へ視線を戻す。
「よし、行先は映画館にしよっか。椿君も興味持ったみたいだしね。安曇君もそれでいい?」
「はい。…見たいのとか、あるんですか?」
「ちょっとね。生徒に進められたのがあって。それを見たいなって。安曇君が見たいのがあるなら、それでも構わないよ」
「いえ。特にないので、お任せします」
それから10分近く車を走らせて、目的地に着いた。
目的地はショッピングモールで、建物の大きさに椿は目を輝かす。
「椿君、こっちおいで。時雨さんじゃないけど、手つないでいいかな? 迷子にならないように」
こくん、と頷いた椿に、ロイは手をとって映画館へ向かった。
安曇も、置いてかれないようについていく。
[prev] [next]
戻る