時雨の考え

時雨が仕事に出かけるのを見送って、椿は身支度をはじめた。
まだ肌寒いため上着を羽織れば、寝室の扉がノックされた。


外は少し暖かい。
昨日とは考えつかないぐらい晴れ渡っていて、椿はほっと息をついた。
安曇も同じように空を眺めている。
ロイに車に乗って、と促され2人は車に乗りこんだ。


「車酔いしたらすぐに言ってね」

と、ロイは言っていたが、運転が上手く車酔いすることはない。
穏やかな運転に椿は心地よさを感じた。


「どこか行きたい場所とかある?」

「俺は特に…」

「椿君も、外の情報はわからないしね…どうしようか」

ロイが運転しながら話すのを椿は聞きながら安曇を眺める。
時雨やロイ、秋雨と違って年が近いせいか、初めは怖かったが今は何も感じない。


「あの、ロイさん」

安曇が問いかければ、ロイは直ぐになにと返事した。
その返事に促されるように、躊躇いがちに聞く。


「どうして、秋雨さんは俺も行くように促したんでしょうか」

「浮かない顔をしてたのは、それが気になっていたからだね」

「はい。…仮にも、俺は時雨さんの事悪いように思ってたし、何するかもわからないのに」

そう、俯いてロイに伝えれば、ロイは苦笑して答えた。


「俺はさぁじゃないから分からないけど、時雨さんが立ち直れたから、君にも立ち直ってほしかったんじゃないかな」

「それは、」

「えっと、もっと簡単に言えば、もっと人と関われってことじゃない?」

「人と関わる、ですか」

「…時雨さんもさ、さぁがうざいぐらいに干渉しないと、絶対家から出てこなかったしね。仕事も自宅で済ましてデータ送るだけだったらしいし」

「そうなんですか?」

「時雨さんはね。まあ、時雨さんのことはさぁから聞いた話なんだけど。安曇君も、あんま人と関わるの止めてたでしょ?」

「なんで、わかるんですか」

「これは職業病。うちの高校、結構多いんだ。そういう子がね」

「すごいですね」

褒めたって何も出ないよ、とロイが笑った。
椿は安曇を眺めるのを止めて、視線を外に移す。
外を眺めているのが好きで、時雨と車で出かけた時も大体は外を眺めている。
今日は、時雨の運転ではないけれど、外を眺めるのを楽しんだ。
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