さよなら、思い出
コンコン、とノックすれば、唸り声が聞こえた。
少しだけ戸をあけて中をのぞけば、簡易ベットに安曇が眠っている。
「あ…あずみさん、あさごはん」
扉から中をのぞきながら、声をかければ安曇がもぞもぞと動いた。
中に入ってはいけない、と思いながら精一杯声をかける。
「あさー…」
「…あっ」
椿が、できるだけ大きな声で朝、と叫べば安曇がはっとしながら起きた。
それを目を白黒させて椿は見つめ、安曇も同じように椿を見つめる。
「…おはようございます」
挨拶をすれば、椿はこくこくと頷いた。
それからリビングのほうに指をさして、走って戻って行く。
安曇はそんな椿の様子に完璧に目を覚まして、身だしなみを整えてリビングへ向かった。
リビングに行けば、皆席について食事を始めていた。
安曇も昨日夕食のときについた席に座る。
それから適当に挨拶を済ませ、朝食を取った。
「安曇、寝起き悪いな」
秋雨の言葉に、ロイや時雨が笑いだす。
その様子にやっと自分が、寝起きが悪く席に着くのが遅かったのに気づいた。
「すみません、いつもはこんなじゃないんですが」
「今まで、寝不足だったんじゃねぇの? あんま寝てなかったみたいじゃん。安心して、ぐっすりだったんだろ」
秋雨がにやにやしながら、安曇を箸でついついとする。
ロイがぺしん、とその手をたたき落とし、きっと睨みつける。
「行儀が悪い」
そう一言呟いて、中断させた食事を再開した。
安曇はそれに少し笑いながら、自分も食事を再開した。
「椿、今日は仕事だから」
時雨がそう椿に伝えれば、椿は頷いた。
それからがんばってきてください、と手に書いて見せる。
時雨はそれにありがとう、と返した。
「時雨さん。俺、今日学校が創立記念日なんで休みなんです。椿君とどこか連れて行ってもいいですか?」
ロイが時雨に向かって、そう伝えれば、椿がぱっと顔を上げる。
それから時雨のほうを向いて、首をかしげた。
「椿が、行きたいなら行ってもいいよ。無理しないでね」
と、時雨が笑いかける。
すると、椿は安心したように頷いた。
「あ、安曇も行ったらどうだ? 安曇のとこも今日、創立記念日だろ?」
秋雨の言葉に安曇ははぁ、と生返事した。
時雨も行きなよ、と笑ったから、椿もこくこくと首を振る。
その様子を見つめて、安曇は俺も行きます、と呟いた。
悲しい訪問者 end
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