やきもち
「椿ちゃん、やきもち妬いてるんじゃないの?」
秋雨が放った一言に、あたりが静まり返った。
それから時雨が一瞬顔を赤らめる。
一つ咳ばらいをして、秋雨を睨みつけた。
「安曇君、できることなら…、たまにうちに来てこの子に会ってくれるかな」
時雨がそう告げれば、安曇は力なく笑った。
「俺、怖がられているんじゃないでしょうか」
「そんなことないと思う。椿は初めは誰に対してもこうだったよ」
そう時雨が笑えば、安曇も笑う。
それから、ちゃちゃを入れるように秋雨が口を開いた。
「俺なんて、警戒されてたよー。まあ、小動物っぽくて可愛かったけど」
「お前は得体が知れないからな…」
そんなくだらない話をしているのを聞きながら、安曇は椿を眺めた。
時雨がその様子に気づき、椿をそっと床に下ろす。
椿はさっと時雨の背中から安曇を見てかすかに微笑んだ。
その笑顔の暖かさに安曇も笑みを返す。
「あずみさ、ん、おとまり?」
「うん、そうですよ」
「ろいさ、と、さあさんと同じ?」
「…?」
椿がぎこちないながらも、安曇に必死に話しかける。
安曇にもそんな椿の様子が伝わり、視線を椿に合わせて話した。
椿の同じという言葉に首をかしげる。
「椿、安曇君は今日だけだよ。帰るお家があるからね?」
椿はそっか、とでも言うように頷いた。
椿の言葉の疑問を安曇は秋雨に聞いた。
「秋雨さんたちはずっとここで住んでいるんですか?」
「え? いや、1ヶ月って話だったんだけど、いつの間にか、1ヶ月過ぎているという…」
安曇の問に、秋雨が額に汗を流しながら答える。
ロイは青ざめた顔で時雨の方を向いて頭を下げた。
「時雨さん、もう少し間借りさせてください」
「…仕方ない。ロイには椿の面倒も見てもらっているし…、どっちにしろ部屋の空きはたくさんあるしな。これからもロイは好きなように使ってくれ」
その言葉に、秋雨が滑り込むように土下座した。
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