落ち着く心

ノックの音で安曇は目が覚めた。
空き部屋に行ってからはずっと泣いていた。
いつの間にか、安曇は眠っていたようだ。
ノックの音に返事をし、出て行けば初めて会う人がいて、安曇は頭を下げる。


「お邪魔してます」

「安曇君だね。俺は時雨さんにお世話になってる路衣英。夕飯、できたからこっちで食べよ?」

「そこまで…」

「気にしないで。1人増えてもそんな変わらないし、小食の子がいるから、君の分ぐらいはある」

「すみません」

小食の子、というのは時雨が世話をしている子のことだろう、と安曇は思い浮かべた。
ああして、時雨の話を聞いて、安曇はだいぶ落ち着いた。
糾弾するつもりだったが、そんな気もなくなっている。
今日はお世話になろう、とロイに連れられてリビングに向かった。


「あ、秋雨のことは知っているんだよね?」

「はい。その、もう一人の子の話を聞きました」

「そっか、椿君熱が出てるみたいで、こっちこれないけど。明日なら会えるかもね」

「椿…」

「そ、椿君。いい子だから、君の事情は知らないけど、あまり傷つけないであげて。時雨さん、あの子のおかげでこうやって普通に生活できるようになったんだよ」

「そう、なんですか…」

「そう。君もきっと、時雨さんみたいな状況なんだろうね」

「…時雨さんから聞いたんですか?」

「ううん。表情を見れば、大体のことはわかるよ。…それに、秋雨から少し聞いていたから」

あの人は、と安曇が呟けば、ロイはかすかに笑って安曇に座って、と勧めた。
それに応えて座れば、ばたばたと音を立てて秋雨が座る。
それから、安曇のほうを見て声を上げた。


「安曇、やっぱ来たんだなー。どう? 恨みは晴らせたか?」

「あんたは、人に嫌われるのが趣味ですか。和解…ていうか、あの人の事情も聴けたので、えらそうなこと言えませんが、許せそうです」

「よかったよかった。時雨もちょっと君のこと気にしてたからね」

秋雨が、にやりと笑った。
安曇はそれに笑い返し、ロイの作った夕飯に手を伸ばした。


「あれ? ロイ、時雨は?」

「椿君が熱出したから、つきっきり」

「ふうん。いちゃいちゃしてんのか。ろいたーん、俺もいちゃいちゃしたーい」

「…いちゃいちゃって。しないよ、さっさと食べて」

「はいはい」

「安曇君も、遠慮しないでご飯食べてね」

「はい」

ロイと秋雨の気さくさに救われた気がした。
安曇は2人のやりとりを見て、落ち着いてきた。
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