ココア

「父は若葉の母を愛していた。だから、若葉を若葉の母に若葉を託した。…それから、父は一の人間は二人に接触することを禁じた」

「どうしてですか。時雨さんは、若葉と会ってたんじゃないんですか」

「会ったのは、若葉が家を出て行ったのが最後だよ」

「嘘だ…、」

「…接触を禁じたのは、若葉の母が若葉をこんな厳しい世界にかかわらせたくない、と父を糾弾したんだから」

「…厳しい世界…」

「彼女にとっては、俺達が気持ち悪かったんだろう。俺達はこう金で物を言わせる、閉ざされた世界で生きているからね」

「なら、どうして俺は若葉と出会うことができたのですか」

「六十里からは、あまり一の決りにはかかわらないから。君の家は個人で1社しか持たされていないだろう?」

「そういうことですか。6から下は低すぎてあまり認知度が低いからですね」

「気を悪くしないでほしい。ああ、…何も出してなかったね、少し待っててくれないかな」

安曇の返事に、時雨はキッチンへ向かった。
それからココアをひとつと、紅茶をふたつ淹れる。
それを書斎へ運んで椿の様子を少し見てきてから、リビングへ戻った。
椿は書斎で窓を眺めていた。
強い雨音に、少し怖くなる。
けれど時雨を呼ぶわけにもいかないから、本を読んで気を紛らわせようとした。
最近のお気に入りの、英語版の推理小説。
それを手に取ったが、英語はまだ教えてもらっていないため、時雨がいないと読めない。
そのことに手に取ってから気づいて、椿は少し悲しくなった。
そっとお気に入りの本を抱きしめて、ソファーの上でブランケットに包る。


「椿、ココア」

急にあいたドアに驚きながら、ブランケットの中から這い出る。
そこにはココアを持っている時雨がいた。
時雨さん、と口を動かしてココアを受け取る。
すると時雨はもう少し待ってね、と優しく頭を撫でた。
それに少し嬉しくなって大きく頷けば、時雨は椿の頬にキスをくれた。


「終わったら、チョコレート買ってあげるね」

大好きな時雨からのキス。
真っ赤になる顔を押さえ、椿は部屋を出ていく時雨の背中を眼で追った。

最近、時雨さんと一緒にいると、胸が痛くなる…、なんでだろう

その思いはまだ椿には大きすぎて、何と呼ぶかが測りきれなかった。
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