黒い影

天気がとても悪い気がする。
早朝、起きて窓を見れば感じたとおり、空は雲に覆われていて今にも大粒の雨が降りそうだ。
隣にいる椿を見れば、まだ穏やかに寝息を立てている。
起こさないようにベットを降りて窓の外を見下ろせば、向かいの道路に黒い人影が見えた。
たぶん、十安曇だろう。


後ろからごそごそと、布団剥ぐ音が聞こえた。
振り返ればまだ眠たそうに眼をこすりながら、椿がベットから出てくる。
時雨のところまで寄れば、椿は時雨に抱きついた。
少し不安そうな手つきに、時雨はそっと椿を抱きしめる。


「まだ早いよ、もう少し眠ろうか」

そう言ってベットに連れ戻すと椿は直ぐに瞼をおろした。
時雨ももう少しだけ…と瞼をおろした。



二度寝して起きてみれば雨が窓を打ち鳴らしていた。
安曇が家を訪れる、と聞き、時雨は秋雨に仕事を替わってもらっている。
椿にも今日はお客さんがくるからと伝えた。
時雨が少しピリピリしているのに気づいたのか、椿は時雨の傍から離れない。
何時頃来るとか聞いていないから、準備もまともにできないが、朝食を取ってある程度身支度してから紅茶などを準備しておいた。
今は椿と2人でソファーでくつろいでいる。


“しぐれさん、大丈夫?”

椿がそう書かれた紙を時雨に見せた。
不安そうな表情に、時雨は笑ってみせる。


「大丈夫。心配しなくていいよ」

安曇が来ることを心配してもしょうがない、そう思い時雨は椿のつむじにそっと口づけた。
椿はその口づけに答えるように笑みを浮かべた。
そっと頬に口づけようと顔を近づけたら丁度チャイムが鳴る。


「出てくるから、書斎にいてくれる?」

頷いた椿を確認して、時雨は玄関に向かった。
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