不安
時雨は、くいくい、と服を引かれるのに目を覚ました。
目を覚まして時計を見れば、朝9時を回っている。
椿が心配そうに顔を覗き込んでくるのに、時雨は少し笑みを零した。
「大丈夫だよ、今日は休みだから」
安心した椿の額にそっと口付けて、時雨は起き上がった。
顔を洗ってタオルで拭いていたら、椿がきゅっと服を掴んでくる。
「ん? …どうしたの?」
首を横に振ってなにもない、と伝えてくる椿に少し不安を感じた。
後で確かめよう、と椿に顔を洗うよう進める。
先にリビングに行くと、丁寧にロイの作った朝食が並べられている。
それをレンジで温めてテーブルへ戻した。
そうして、皿を並べていたら、椿が小走りで駆け寄ってきて、またきゅっと時雨の服を掴んだ。
「椿…?」
名前を呼べば、椿はぱっと掴んでいた服を離した。
それからその手をもう片方の手で握りしめ、自分の席に座る。
時雨も自分の席に腰をかけ、遅い朝食をとった。
「椿、何かあった?」
ふるふる、と首を横に振る椿に、時雨は後で聞くからね、と強めに伝え、食べ終わった食器を運び洗った。
椿が運んだ食器も洗い終わり手を拭いてから、側に立っている椿を抱きかかえてリビングのソファーに2人で座る。
そっと頬へ口づければ、椿は安心したように息を吐いた。
「どうしたの?」
紙を渡しながら尋ねれば、椿は少し躊躇いながら、綺麗で繊細な文字を走らせる。
“テレビで、捨てねこの話がやってた。しぐれさんも いつか 僕を捨てるの?”
「…どうして、そう思ったの?」
時雨の優しい声に、椿は顔を曇らせた。
ペンを持つ手が少し震えて、小さな黒い跡を残す。
時雨はそっと椿の手の甲を撫でて書くように促した。
“わからない、でも、しぐれさんがどうして僕を拾ってくれたのか、わからなかったから”
「…そうだね。話さなければ、不安になるよな」
そういって時雨は立ち上がり、サイドボードの中から一枚の写真を取り出した。
そこには今より少し若い時雨と、ほっそりとした美少年が立っている。
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