体温
「時雨、帰ってたんだ」
「ああ」
いつの間にか帰っていた秋雨が先に食卓について野菜のスープを飲んでいる。
ロイも同じように食べていた。
椿は食べずに時雨を待っている。
時雨が席に付き箸を持てば、椿も同じように食べ始めた。
「椿、付いてるよ」
そっと椿の頬についてるソースを拭いてやると、椿はありがとうと頭を下げた。
いつも秋雨とロイは大体無言で食べる。
たまに会話する程度で、大体は黙っていた。
時雨も時々椿に話しかける程度で、普段の食事は静かに過ごしている。
食べ終われば、皆個人で使った食器を運び、各々で過ごす。
今日も何時もどおりに食事を済ませた。
「風呂は?」
「椿君ならもう入りましたよ」
ロイが返事したのを見て、椿の頭を撫でた。
少し髪が濡れている。
多少は自分で乾かしたようだ。
「風呂入ってくるから、書斎で待ってて。今日は勉強は休みで、なんか読んであげるよ」
頷く椿に、時雨は笑って風呂場へ向かった。
風呂から上がり書斎へ行けば、椿がソファーに座ってぼーっとしていた。
伸びた髪が椿の横顔を隠している。
そっと、横顔を隠している髪を耳に掛けると椿が時雨の方に向いた。
「椿、寒くない?」
ブランケットをそっとかけてやり、様子を見る。
寒くないようで少し送れて首を横に振った。
「そう。あ、何読もうか…前に読んだのは、シャーロックホームズだった?」
椿の肯定に時雨は棚から推理小説を取り出した。
英語で書かれたそれは、時雨の好きな作品。
椿は英語を見るのが好きなのか、時雨が指でなぞるのを熱心に目で追いかける。
前に読んだシャーロックホームズの時も、必死に目で追いかけていた。
椿をそっと抱き上げて膝の上に座らせて、本を開く。
それから何時間か本を読んで、椿が眠そうにしたのを機に寝室へ向かった。
そっと椿を抱き上げたら小さな手が時雨の服を掴んだ。
時雨はその手を愛おしく見つめる。
静かに息を吐いて、そっと椿をベットにおろした。
自分も椿の隣に寝転がり、そっと椿を抱きしめて目を瞑る。
小さな体温が時雨の体温と交わった。
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