忙しさ
時雨が思いを自覚してから、急に仕事が格段と忙しくなった。
けれど椿との約束を守るため仕事を早く終らせて10時には家に帰るようにしてた。
ロイは定時に帰れるのか、帰って夕飯を作ってくれたりしてる。
今日も、いつもと同じように家へ帰ると、椿が出迎えた。
「椿、ただいま」
その様子が可愛くて、椿を抱き上げ頬へ口付ける。
毎日それを受けているため、帰ってきたらただいまのキスが日課になった。
椿を抱き上げたまま部屋に入れば、ロイがキッチンから顔をのぞかせニヤニヤしてる。
そんなロイに思わず苦笑した。
「椿、今日は何してた?」
と、聞いてみれば、椿はテーブルに座って時雨に机にあった紙にペンを走らせた。
“漢字の勉強”
「漢字、この間秋雨に買ってもらったワーク?」
“うん、それと、本を読んでた”
「何を読んだの? …ずっと書斎に居たんだね」
“お菓子の本、こんど、ロイさんが一緒に作ってくれるって”
「良かったね、俺にもくれる?」
椿はこくんと頷くと、柔らかい笑みを浮かべた。
長い髪がさらさらと揺れる。
結構前髪が伸びた。
そっと、目にかかった前髪をずらすと、青い瞳が覗く。
その瞳は綺麗に時雨の姿を映した。
「椿君、ご飯の支度するから手伝ってくれる?」
椿は大きく首を振って、ロイの元へ行った。
時雨はその姿を見つめ、書斎へ向かう。
書斎の硝子テーブルに書類やノートパソコンを置き、鞄を脇に置いた。
前はリビングで残った仕事や家でやる仕事をこなしていたが、最近は椿と一緒に書斎の硝子テーブルでこなしている。
その為椿の勉強道具が、綺麗にちょこんと机の上に置かれていた。
ソファーには椿用のブランケットが置かれている。
ロイが呼んでいるのが聞こえ、時雨はリビングへ向かった。
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