チョコレート

車に残っていたチョコレートを口に含み、椿は少し笑みを浮かべた。


「チョコレート好きみたいだね」

そう時雨が笑いかけると、椿は頷いた。
今度、とても美味しいチョコレートでも買おうと時雨は決めた。


車を走らせると、直にパーキングエリアに着いた。
車高の高い車からおり、店内に入ると、温かい食べ物の匂いが充満している。
まだ、人混みに慣れていない椿を思い、時雨は車内でも食べれるものを選ばせた。
椿は、鮭のおにぎりを選んで、時雨も同じように梅と鮭のおにぎりを購入する。

少し、オドオドとしている椿を引き寄せ、直に店内を後にした。

車内へ戻ったら、おにぎりを食べさせた。
美味しそうに食べている椿に軽く笑いながら、時雨も直に食べ終えた。


車を走らせれば、椿は久しぶりの外出で疲れたのか、眠ってしまった。
それに安心して、時雨は運転に集中した。
マンションに着き、椿を抱き上げ部屋に帰ると、ロイと秋雨はまだ仕事から帰って着ていなかった。
扉が閉まった音で目を覚ましたのか、椿が身じろぐ。
時雨は椿をそっと床におろした。


「目を覚ましたんだね、…何か食べたい?」

首を振って否定した椿に、時雨はそっと手を引いてソファーに座った。
椿も同じように時雨から少し離れたところへ腰をかける。


「もう少しこっちへおいで」

椿は少しおろおろしながら、時雨の傍までよって来る。
それに、時雨は紙袋の中から買ってきたネックレスを取り出した。
取り出したそれは女性ものだろうけれど、とても綺麗で椿に似合うだろう。

時雨はそう思い、椿の頬にそっと触れた。
手に握った細い鎖がしゃらしゃらと音を鳴らす。
そっと椿を引き寄せ抱きしめて、長い髪の下に手を通し、鎖を繋げる。
鎖は儚い音を立て、椿の首元を彩った。

灰色の髪に銀色の鎖が映える。
白い肌に薄紅色の椿が輝いた。


「よく似合ってる。…これは、俺の気休めになるんだけど…、君が落ち着けるものになればいいと思う」

こくん、と頷く椿に、時雨は紙袋から、指輪を取り出した。
ネックレスと同じデザインの指輪を椿に見せる。
デザインは同じだが、それは男性でも着けられる様に、ネックレスのように華奢なものではない。
それを、指にはめた。
それから、椿の頬に触れる。


「椿、俺は明日から仕事に行くけれど…」

その言葉に椿は少し震えた。
多分、置いていかれるんじゃないか、と考えているのだろう。


「…椿を置いていなくなったりしないから、大丈夫だよ」

時雨の声に、椿は微かに頷く。
その様子に時雨は、そっと椿の頬に唇を寄せる。

唇を寄せた頬は綺麗な薄紅色に染まった。


(ああ…、俺はこの子を…)

薄紅色に染まった頬を見つめ、急に時雨は自覚した。
この子を、とても…、好きになっている、と。
もちろん、もともと負の気持ちを持っていたわけじゃない。
友人などに抱く感情ではなくて、恋人などに抱くような、感情があふれ出してくる。


「椿…、」

思わず名前を呼んでしまう。
呼ばれた椿は、こてんと首をかしげていた。

その様子に、なおさら、感情があふれ出す。
時雨は口元を抑えた。


どうしようもなく、好きになってしまった…

椿の花 end
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