椿の花

椿がまどろむ目をこすりながら、時雨の手に触れた。
そのままその手は重なる。


「まだ眠たいようだね」

うとうととしながらも、椿は首を振って眠くないと答える。
その様子を愛おしく思いながら、時雨はゆっくりと足を進めた。
進めていくと、ガーデンの文字が見える。
チケットを買い、園の中に入ると一面が雪景色となっていた。
静かで人の少ない園の中を2人は進んだ。


「…ここは、椿が沢山植えてあるガーデンだよ。椿の花」

時雨の言葉に、椿は辺りを見渡す。
視力が低い椿でも、真っ白な雪景色の中を転々と赤く染まった色が見えた。
時雨は椿の手を引き花へ近寄ると、そっと“椿”の花へ指を這わせる。


「椿は、とても美しい花だよ」

椿は花へ顔を寄せて、時雨に寄り添った。
お互いの体温で少し熱が上がる。


「どう? 椿の花を見た感想は」

時雨は“椿”に触れていた指を、椿の頬へ這わせる。
それからすっと髪を梳く。
さらさらと、長い髪が時雨の指をすり抜けた。

椿は時雨の指を感じながら、きれい、と唇を動かした。
その様子に、時雨もそうだね、と呟き椿に微笑みかける。
椿も同じように微笑んだ。


「椿、奥のほうにも行ってみようか」

2人は立ち上がり、歩みを進める。
奥のほうは森のようになっていた。
森と、椿の花が違和感があるが、なぜかその違和感が心地よいものになる。
森のほうが暗くなっていて、少し脅えている椿の手を強く握った。


「少し暗いね、大丈夫? …へぇ、こっちはピンクの方が多いんだ。椿にはこっちの方が似合うね」

時雨は椿に微笑みかけて髪を撫でた。
髪を梳く時雨の手に椿も嬉しそうに口笛を鳴らす。
その様子に安心しながら、冷たくなっている椿の頬を撫でた。


「体が冷えてきたね。…売店にでも行こうか」

時雨は椿の手を引いて、もと来た道を引き返した。
雪の上をふたつの足跡が歩んでいく。
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