甘い、安定剤
「椿、ごめんな…。抱きしめることしか出来なくて…」
そんなことない、とでも言うように椿は時雨の肩に額を摺り寄せた。
時雨はそんな椿の髪に指をさしこむ。
「椿、俺なんかに出来ることなら、君を守りたい…」
時雨の言葉に椿は、密かに頷いた。
それから、背中に腕を回してきゅっと力を入れてくる。
時雨は思わず息を呑んだ。
すがり付いてくる椿に、椿には自分しか居ないんだ、と感じ思わず椿を離す。
それから椿の額に口付けた。
「…ごめん。すこし弱気になっていたみたいだ。大丈夫…」
不安げに見つめる椿の額にもう一度口付けて、時雨は椿を抱き上げ車に戻った。
椿を抱き上げれば、きゅっとしがみ付いてくる。
「よし、目的の場所に行こうか。」
車を走らせ道を進んでいくと、先ほどよりも綺麗な雪景色が見え始めた。
椿はまっすぐ雪景色を見つめている。
温かい車の中は、心を安らげてくれた。
「椿、チョコレートの箱開けられる? 開けて」
頷いてあけ始める椿に、時雨は微笑んだ。
それから、チョコレートを一つ貰って口に含む。
椿も同じように口に含んだ。
甘い香りが鼻をくすぐって、口内を満たす。
椿がほっと息をつくのを見て、時雨も安心した。
何分か車を走らせると、椿は寝息を立てた。
そっと髪を梳くとさらさらと音を立てて流れる。
大分進んだところで目的地に近づいていった。
長いレンガの塀が目に入り、駐車場が見える。
駐車場へ車を止め、椿を起こした。
「椿、ついたよ」
目を覚ました椿は、時雨を見て、小さく微笑んだ。
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