雪が積る

「体冷えてない?」

と、問いかけると椿は大丈夫だと頷いた。
時雨はそれに安心し、車を走らせる。
途中で高速を降り、ビルやマンションの全く無い道を進んだ。
辺りは田んぼや森しかない。


「すごい自然だね」

椿が圧倒されて窓から視線を外さないのを見て、時雨は笑った。
それから椿に一つ一つ教える。


「雪が降っているね…。あの、雪が積もっているところは田んぼ。木が沢山生えているところは森」

田んぼ、森、と椿は口を動かす。
その様子を見つめながら、時雨は続けた。


「ヘンゼルとグレーテルにあったのと同じだよ。田んぼは、カエルやメダカが居るところ。降りてみる?」

まったく車が通らないため、時雨は椿にそう提案した。
椿は下りる、と返事し、2人は車から降りる。

2人はしゃがみ込んで田んぼを覗いた。
冬で、雪が少し積もっていたため余り良く見えなかったが、水はとても澄んでいる。
稲も何もないが、椿は興味深く見つめていた。
近くにあった雪に触れてみる。


「椿、雪冷たくない?」

つめたい、と唇を動かす椿に、時雨は笑って椿の手を取り包む。
椿は首をかしげて時雨を見つめた。


「ずっと、冷たくしてると痒くなるんだよ」

そういって、椿の指に自分の指を絡め引き寄せる。
それから椿をきつく抱きしめた。
白く積もった雪を、椿は時雨の肩越しに見つめる。
雪に雲の間から差す光がキラキラと光っていた。

何も知らず時雨に教えられることを、すべて復唱する椿を見て、時雨はなぜか心が痛んだ。
仕方がないことだが、どうしようもなく椿を抱きしめたくなる。
ただ、椿が何も知らない事が苦しいわけではない。

自分が何も出来ないことが苦しいのだ。
ただ、こうして傍に居て抱きしめることしか出来ないことが苦しく、哀しい。

こんなに、この子を思っているのに…

胸が苦しくなって、時雨は息を吐き出した。
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