書斎
翌日は、書斎で二人で過ごした。
椿が眠ってしまった為、途中までしか読まなかった人魚姫を読む。
腕の中で静かに聞いている椿は、時雨に凭れ掛かった。
椿の体温が時雨に移る。
その体温に思わず、微笑むと、椿がこてん、と首をかしげた。
「椿、他にも童話読む?」
頷く椿に、他の本を開いた。
開いた本はヘンゼルとグレーテル。
表情には見せないが、椿は楽しそうだった。
けれど、少し震えている。
「怖い?」
そう問うと、椿は首を横にふった。
椿の手に触れてみると、少し冷えている。
「寒いんだね。今、ブランケット取って来る」
椿が返事をするのを見て、書斎を後にした。
寝室の箪笥からブランケットを持ち出し書斎へ向かう。
書斎は一つ部屋を挟んで隣にある。
書斎に戻ると、椿はソファーの上で眠っていた。
小さく丸まって眠っている椿は規則正しい呼吸を零している。
背中が上下するのを見つめ、時雨は息をついた。
最近、気を張っていた気がする…
椿はこれ以上に気を張っているんだろうか
不意に寝息が止まったと思ったら、椿が起き上がってはらはらと涙を流し始めた。
時雨は声をかけずに、ブランケットで包み抱きあげる。
落ち着かせるようにぽんぽん、と背を叩いてやると、椿は落ち着いたようでうとうととし始めた。
「夜、深く眠れてないみたいだね。…大丈夫、眠っていいよ」
椿は首を振って、時雨にしがみ付いてきた。
時雨は珍しく駄々をこねる椿に少し驚きながら、しがみ付いてきた椿を宥める。
とても愛おしく感じ、椿の額をさらし口付けた。
「あ、…ごめん」
椿はぽかんと口を開け、徐々に頬を真っ赤に染めている。
あまり表情の変わらない椿が、盛大に顔を赤らめているのに、時雨は少し面白くなった。
嫌ではなかったらしい、と今度は髪に口付ける。
「椿、すごい顔赤いよ」
時雨にからかわれた椿は、ぼんっと音が出るほど顔の赤みを増した。
それから軽く腕を伸ばし、嫌がる猫のように恥ずかしがって時雨を遠ざけようとする。
「お、離れようって? そうはいかないよ」
時雨は綺麗に微笑み、椿を強く抱きしめた。
抱きしめられた途端椿は急にまったく動かなくなった。
全く動かなくなった椿とは正反対に、合わさった椿の胸の鼓動がとても早い。
「椿?」
全く動かなくなった椿は、時雨の問いかけに反応しあたふたとあわてた。
それから、時雨の背に手を回す。
「今日の椿はなんか忙しいね」
大きな手がポンポン、と椿の背を撫でる。
落ち着き始めたのか鼓動も収まり、時雨も椿を開放した。
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