お風呂
リビングのソファーでゆったりと過ごしているうちに、夕食時になっていた。
秋雨が鼻歌を歌いながら、夕飯を作っている。
「椿、先、お風呂入っておいで」
そう伝えると、椿が不安げに時雨を仰いだ。
時雨は思わず飲んでいた飲み物にむせた。
コップを置いて、椿を見る。
「ひ…とりで入れない…?」
こくん、と椿が頷く。
椿の不安そうな瞳に、時雨は返答に詰まった。
うるうるとした瞳が愛らしいが、心臓を掴むような要求だ。
「…ロイ、一緒に入ってやってくれ」
「え? 時雨さん一緒に入ったら良いじゃないですか。椿君、時雨さんと入りたいみたいですし」
「いや、なんか、俺が入ったらダメな気がして…」
ロイに頼むがが、そのロイが時雨の方が良いと言う。
隣で椿がしゅん、と少し項垂れたのが見えた。
「分かったよ。…椿、入ろっか」
そういって、時雨は椿の手を取って脱衣所へ向かった。
椿のセーターを脱がし、先に風呂場に入れて自分も入る。
「細いな…」
この間見たときは暗がりだったのと、焦りもあって、しっかりと見えなかったが、椿はとても細くて色が白い。
栄養失調気味だったのに、肌がきめ細かく絹のようだ。
だが白い肌には青痣や切り傷、火傷が沢山敷き詰められている。
思わず、生唾を飲み込む。
雪の様に白い肌に傷跡が映えて見えた。
長い灰色の髪が肌に触れてさらさらと流れ、綺麗に肌の色を際立たせる。
長い髪を洗い体を洗わせ、浴槽につからせる。
自分もすぐに体を洗い浴槽に入った。
「温かい?」
そう聞くと、椿はひゅうっと息を吸った。
心地よさそうに目を瞑る。
長い髪が浴槽に散らばり、時雨に触れた。
そっと、その髪を持ち束ね、肩へかける。
「あと10数えたら上がろう。…こうやって指を折って」
椿に数えさせ、浴槽から出る。
そっと脱衣所に出て掛けて置いた柔らかいタオルで椿を覆った。
置いておいたパーカーを被せ、ロイが買ってきたズボンと下着を渡す。
自分もすぐに着替え、椿の髪を別のタオルで優しく拭いた。
腰に届く程の灰色の髪が電球に辺りきらきらと輝いた。
白い肌も灰色の髪のように綺麗に見える。
小さな、自分よりも一回りも二回りも小さな椿がとても綺麗に見えた。
「よし、乾いたな」
椿の頭を撫でると椿は嬉しそうに時雨の袖を掴む。
そんな椿を抱き上げて、脱衣所を後にした。
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