深い眠り

「時雨さん、着替えは?」

「持ってくよ。ありがとう、後は俺がやる」

「いえ、こちらこそ急にお邪魔したんで…。その、」

「なんとなく分かってる。詳しくは後で」

ロイが礼を言いながらリビングへ戻って行く。
それと同時に、時雨は風呂場に入った。
椿はタオルを纏ったまま、洗面所の窓を眺めている。
その様子を見つめながら、時雨は椿に声をかけた。


「温まった?」

時雨が問うと椿は嬉しそうにこくり、と返事をした。
それから、時雨の肩をとんとん、と叩いて、窓の外を指で指す。
指の先を視線で追いながら、時雨は椿に自分のパーカーを着せた。


「月…? 綺麗だね」

月を見て綺麗だと言うと、椿は嬉しそうに笑った。
時雨の大きめのパーカーは椿の体を楽に収める。
昨日干した下着を渡し、ズボンも渡した。


「履いていいよ。…明日、午前中に叔母さんの家に行って、午後は体調が良ければ、良い所に連れて行ってあげるね」

下着と大きなズボンをはいた椿の肩にふわふわしたタオルを掛ける。
濡れた髪が肩に当たらないようにする。
それから椿を抱き上げた。


「…服を買って、椿の花を見に行こうか」

頷いた椿に安心しながら、洗面所から離れた。


「椿ちゃんお帰りー。温まったみたいだねえ」

秋雨が椿に笑いかけると、椿もぎこちなく笑って頷いた。
ロイと秋雨にも慣れたのか、時雨の傍を離れないが、怯えることは無くなった。
時雨はソファーに座り、足の間に椿を降ろす。
それから肩にかけていたタオルで髪を拭く。


「眠気が覚めたみたいですね」

「ああ、よっぽど風呂が楽しかったみたいだな」

「はい。…あの、多分ですが、椿君、寝つきが悪いと思います」

「寝つき? 眠っているようだけど…」

「たぶん、少し眠ったら起きてしまうんでしょうね。…深く眠るまで傍にいてあげたら良いと思いますよ」

「わかった…。椿、寝室は冷えてるから温まるまでホットカーペットで寝転がってて。暖房付けてくるね」

「椿ちゃん、こっちおいでー」

大分乾いた髪を撫で、寝室の暖房器具を付けに行った。
戻ってくると、椿を挟んで2人が寝転がっている。
それに苦笑しつつ、秋雨を呼んだ。


「秋雨、何時まで泊まる気だ?」

「んー、1ヶ月くらい」

「…お前…」

「大丈夫だぜ、家賃代わりに食費と水道代は俺が払う。いつもの部屋借りるな」

「…1ヶ月だぞ」

秋雨が礼を言うのを聞きながら、時雨は椿のほうへ目を逸らした。
椿は小さく丸くなりながら、テレビを見ている。


「ロイー、紅茶飲みたい」

秋雨の言葉にロイは顔を顰めながら、立ち上がった。
それから時雨に許可を取り紅茶を作りに行く。
ロイの場所に時雨が座り、椿の髪を撫でた。

撫でられているのが気持ちよかったのか、椿はすぐに瞼を下ろし、眠りについた
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