突然の訪問

電話で遊んでいるうちに、時雨の携帯が鳴った。
椿は時雨の袖を掴んでいた手を離して若干離れる。
それを見た時雨は、椿の手を握ってホットカーペットまで戻った。


『時雨、今回のCM、俺のデザイン使え』

「…」

電話に出てから相手に気づく。
偉そうな口調に時雨は若干苛立ちを感じた。
相手は、時雨の従兄弟兼、仕事仲間の九秋雨だ。


「秋雨、休日なのに電話してくるとはどういうことだ…」

思わず、低く呻くような声で嗜めると、隣に座った椿がびくりと肩を震わせた。
そんな椿の頭を優しく撫でながら、秋雨の話を聞く。


『ほらー、あれだ。とりあえず今、ロイと玄関にいるから…おッ鍵開いてる』

「は…、お前、ちょっと待て!」

「おじゃましまー」


「…す」


突然開いたリビングの扉に、驚いた椿の体が震えだす。
中に入ってきた秋雨と、秋雨の隣にいた男性も、口をぽかん、と開けた。
時雨は突然入ってきた2人をにらみながら、椿を抱き上げる。
体を震わせながら、時雨にしがみついた椿をあやすように、背中を撫でた。


「ごめん、椿。大丈夫だから…落ち着こうね」

「…、な、なにそれ」

入って来た2人も、まさかこんな状況になっているなんて思ってもいなかった。
時雨の優しく椿をあやす様子を見つめている。


「今日から家で暮らす椿。で、お前等も座れよ」

時雨は椿が落ち着いたのを見計らって、ソファーに降ろし隣に座った。
にこりと笑って座るのを促した時雨に、2人は申し訳なさそうに腰を下ろす。


「椿、この背が高い方が俺の従兄弟」

「九秋雨、ね。よろしく、椿君?」

椿は時雨の説明にこくんと頷いた。
だが、秋雨には警戒しているようで、きゅっと口を閉め時雨の袖を握っている。


「こっちが秋雨の恋人」

「路衣英です。よろしくね」

ロイは、にっこりと椿に笑いかけた。
椿はロイには警戒を見せずに、少しだけ興味を示した。
唇がゆるくなって、時雨をちらりと見上げる。
ロイに興味を示した椿に安心したのか、時雨は椿の頭を撫でて笑った。


「椿、従兄弟って何かわかる?」

時雨が椿に問いかけると、椿はこてんっと首をかしげた。


「さっぱり、みたいだね。後で教えるね。…椿、ロイとあっちで一緒に居れる? 紙とペン使って良いからね」

時雨はそう問いかけると、椿はこくんと頷いた。


「ダメそうだったら、すぐこっち来るんだよ」

もう一度頷いた椿は、ロイに視線を移す。
ロイは物分りがよく、馴れ馴れしく椿に構うわけでもない。
椿の様子を見て、優しく声をかけながら、椿と一緒にテレビのほうに行く。
ロイがテレビをつける様子を眺めながら、椿はゆっくりとロイの隣に腰を下ろした。
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