君の隣に-靖臣視点-
「どうして抵抗しなかった?」
1人目のバカを引き倒した際に見た光景に僕は目を疑った。
一切抵抗せず目を閉じたその姿。
まるで同意しているかのようなヒロ君の肌を暴こうと、バカ達は嬉々として服を脱がせていた。
辛うじて服だけだった…と思いたい。
何故。どうして? こいつらが好きだから?
…違う。ヒロ君は真昼君が好きだと言っていた。
「何で抵抗しなかった?」
問い掛けには答えずただ此方を見返すだけのヒロ君。
「……」
ぼんやりとした眼差し。
その眼に焦りを覚え、手首から肩へ掴み変えるとヒロ君を揺する。
「ヒロ君、答えて!」
「…真昼は居ない。だから誰でも同じ」
…聞き間違いかと思った。
硝子越しじゃない眼が僕を見る。
「ヒロく…」
「何をそんなに怒ってるの。お気に入りのオモチャに触られたから?」
淡々とした声は彼の物なのに、別のひとが話しているような錯覚を覚えた。
「オモチャ」
「倉沢先輩が俺に構っていたのは、オモチャだからだろ?」
ゾクリと背筋が凍ったような気がした。
倉沢と名乗った覚えは無いしオモチャ扱いなんてしていない。
オモチャだなんて思ったことなんて無い。
遊びならとっくに手ぇ出してる。
本気だからこそ大切に慎重にしてきたつもりだ。
なのに、ヒロ君は頑なな位それを…オモチャ扱いを信じ切っている。
僕はヒロ君の肩から手を離し半ば強制的に学ランを着せた。
逃避気味のヒロ君は逆らわずに袖を通し、ボタンを止めた。
それを確認してから無造作に彼の腕を掴んだ。
「…いった…」
力の加減が出来てないのは自覚していた。
物凄くイライラしていた。
3バカに襲われて抵抗してなかったのも、僕を苗字で呼ぶのも、オモチャ扱いだろうと、決め付けたことも。
でも一番苛ついたのは自分にだ。
…どうしてオモチャ扱いだなんて勘違いさせてしまったのだろう。
自分の事を教えなかったから? 聞いてくれれば何時でも答えたのに。
僕はヒロ君に聞いて欲しかった。
興味を持って欲しくて自分からは何も話さなかった。
……それが誤解を招いたのだとしたらそんな意地、張るべきではなかった。
腕を掴んだまま、黙って歩き出す僕にヒロ君は驚いたようだった。
途中、起き上がろうとしていた3バカの2人を再度蹴り倒して扉に手を掛ける。
そのまま階段を降りて腕は離さないまま二年の教室へヒロ君の鞄を取りに行き、続いて三年の教室へ向かった。
教室へ入るとさっき3バカの事を教えてくれた友人が居たけれど、僕の顔を見ると直ぐ教室を出て行った。
多分屋上に向かったのだろう。
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