君の隣に-靖臣視点-


「僕の名前は倉沢靖臣。ヒロ君は?」

僕の問いに彼が口を開く。


「俺の名前は蜂江紘。…オミ先輩だったら好きに呼んで良いです」

照れ臭そうに笑う表情に鼓動が激しくなるのを自覚した。
…それは、僕の告白を受けてくれるという事なのだろうか?
少し迷ったけど誤解もしたくなかったからストレートに聞くことにした。


「ヒロ君の中に、真昼君はいる?」

「…それは」

……ストレート過ぎただろうか? 目線を逸らしたヒロ君は少し考えるような素振りで眼を伏せた。
そうして。


「多分真昼は俺の中にずっと居ます。…でもそれは前と違う。大切だけどオミ先輩とは違うんです」

「オミ先輩と居るとほっとして肩の力を抜けるんです。正直気にはなってます。だけどそれが恋愛かまでは、ちょっと…」

言葉を選びながら慎重に話すヒロ君を、僕は初めて見ていた。
彼の一生懸命な姿は知っていた。でもそれはいつも他の人に向けられていた。
今、初めて自分に向けられたひたむきな姿に…僕は改めてヒロ君を好きだと実感した。


「解った有難う。これから頑張ってヒロ君を口説く事にする」

そう返すと、ヒロ君は数回まばたきをした。僕は捕まえていた彼の両手に力を込めて、引き寄せる。
そしてバランスを崩したヒロ君の頬に唇を当てた。


「なっ! い、いきなり何をっ」

振り払われるより先にヒロ君の両手を解放した僕は真っ赤になったヒロ君を幸せな気分で眺めた。


「はいこれ」

可愛い反応ばかりする彼に、僕はマイクを手渡した。


「え?」

「僕の好きなヒロ君の歌声を聴かせて?」

「〜っ!?」

本当はキスだけじゃ足りない。
今直ぐにでも押し倒して、ヒロ君を味わいたい。
正直いえば少し身体は熱を持っていた。

……でも。
焦る必要はないと解ったから今日はここまで。
機械を操作して、ヒロ君が良く歌っていた曲を幾つか選んでいく。
ぶつぶつ言いながらもマイクに掛けられた袋を剥ぐヒロ君。
その日僕は久し振りに彼の歌声を聴いた。低過ぎない声と正確な音程はいつまでも聴いていたくなる。
自分にだけ歌わせるなと、マイクを押し付けられた僕も久し振りに歌った。

……僕の声を聴いたヒロ君がバンドの話を振ってきたのは、それから間もなくのことだった。


end
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