ピンクの中の白

「あのな、汰絽、その人はここら一帯の不良さんを束ねる総長さんなんだよ」

「え? …村長?」

「いえ、違います。村長ではありません。総長です」

「へえー…そうなんだぁ。すごいねぇ」

「うん、そうだねーじゃなくて、総長!! 不良さん!! わかる!?」

「うん。煙草ぽいする人でしょ」

「まあ、まあ、そんな感じ」

中々理解を示さない汰絽に、うんうんと唸りながら好野は説明を続ける。
そんなふたりにクラスメートもはらはらしてきたのか、ちらちらとふたりに視線を寄せていた。
そのうちに、誰かが小さな声で、いっちー、がんばれ、とエールを送ってくれる。
がんばれの声に、好野は手を挙げて、苦笑した。


「とにかく、その人には近寄っては駄目! 消されるから! 汰絽なんてミジンコいかだからな!!」

「僕はミジンコではありません。ミジンコはよし君です」

「いやいやいや、そこに理解を示さないでね。わかった? 汰絽?」

「ん。わかった」

「あ、あの人は春野風太先輩ね。よおく覚えろよ。あと、その人と一緒にいる人にも近寄ったら駄目! 消される前に孕んじゃうからね」

「孕む?」

「ごめん、なんでもない」

ようやく理解した汰絽にクラス全体が安心する。
そこらから安堵の息が聞こえて、汰絽は首をかしげた。
そうこうしているうちに、汰絽達のクラス担任が入ってきた。
やる気のないだらーとした担任は、だらーとしたショートホームルームを始める。
汰絽はそんな穏やかな時間の中、ぼけっと窓の外眺めた。
2階からの眺めは絶景で、桜の花びらが舞っている。
朝見た桜も綺麗だったが、上から見る桜も綺麗だ。
一面ピンクの中に、ぽつんと白いものがある。
それはさっと動いて、上を見上げた。


「あ…」

(春野、風太先輩)

目をこらさなくても、その人だとすぐにわかった。
持っている雰囲気がとても綺麗で精錬されている。
好野の説明の怖いイメージじゃなくて、どこか優しい知っているような雰囲気。
あの一瞬でも汰絽にはわかった。
だらけたホームルームの中、汰絽はその人に見とれていた。
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