ごちそう

料理を運んだところで、むくのただいまという元気な声が聞こえてきた。
汰絽は玄関へ小走りで向かい、靴を脱いでいるむくをぎゅっと抱きしめた。

「おかえりっ」

「ひゃーっ。なにー?」

「…いや、なんか…えっと…。春野先輩も、おかえりなさい」

「おう、ただいま」

頬を赤くした汰絽に軽く笑い、風太は靴を脱ぐ。
靴を脱ぎ終えたむくは、汰絽を抱きしめ返しながら、きゃっきゃと笑う。
手、洗ってきてね。
落ち着いた汰絽がそういうと、ふたりは洗面所に向かった。


「たぁちゃん、うれしいの?」

「たしかに、機嫌いいな」

「むくもうれしー!!」

「そっか、よし、手を拭けー」

「はーいっ」

どこか嬉しそうな汰絽の様子を思いながら、手を拭いた。
ニコニコした顔もそっくりだな、と笑いながら、風太も手を洗う。
むくと手を繋ぎながらリビングに入ると、夕飯のいい香りがしておなかが鳴った。


「あのね、あのねっ、むく、今日お絵かきしたのっ。お花、いっぱいいっぱいかいたよっ」

「そうなの? 後で見せてくれる?」

「うんっ。せんせい、いっぱいほめてくれた」

「よかったね。むく、お絵かき大好きだもんね」

「うんっ」

嬉しそうに話すむくに頷く。
自分の椅子に座ったむくに微笑みながら、汰絽と風太も腰を下ろした。
いただきます、と手を合わせて、3人は食事を始める。


「ごちそうっ。ふうた、お誕生日?」

「俺? いや、俺はもう終わったよ」

「いつですか?」

「5月5日」

「こいのぼりの日!」

「こいのぼりの日?」

「子どもの日のことですよ。こいのぼり、上げるじゃないですか」

「ああ、なるほど」

子どもの日。
風太のイメージと違う誕生日に、小さく笑う。
それに気づいた風太は、汰絽に苦笑した。
それから、むくに誕生日はいつなのか訊ねる。


「むく、おかしいっぱいくれる日! は、はろ、うい?」

「ハロウィンか」

「うんっ。たぁちゃん、おひなさまの日!」

「雛祭り…」

「笑わないでください」

思わず噴き出しそうになった風太に、汰絽は先手を打つ。
それからむくの頬についたソースを拭いた。


「…夕飯食べたら提出してくる。それと、むくには俺が伝えてもいいか」

「はい。…お願いします。あ、むく、ほっぺにまたついてる」

風太に軽く頭を下げてから、むくの頬からもう一度ソースをぬぐい取る。
おいしい? と訊ねると、むくは満面の笑みを浮かべ、ピースした。


「ふーた、お風呂入る?」

「あぁ。帰ってきたらな」

「わーいっ!」

むくが嬉しそうにぶんぶんと手を振ったのを見て、風太も珍しく穏やかな笑みを見せた。
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