みっつのマグカップ

「良かった。これで安心できた」

「まだ早いんじゃねぇの?」

風太の言葉に、風斗は軽く笑う。
それから書類の必要事項を書き込み、手渡した。
その会話を聞いている汰絽も小さく笑う。


「アンタもマンションで暮らすんだろ」

「わかってるって。もう、風太はせっかちだなぁ…。汰絽君みたいにおだやかになりなよ」

「おだやかって」

風斗の言葉にはあ、と大きな溜息を吐いた。
それから受け取った書類を確認して鞄に入れる。
風斗と笑い合っている汰絽が楽しそうで、風太は安心した。


「そういえば、風太。夏翔君とは仲良くしてるの?」

「まあ、それなりに」

「夏翔君、最近顔出さないから、またお前にやられたかと思ってたよ」

「…うるせー」

風太がふいっと窓の外に視線をそらしながら言うのを聞いて、風斗は全くこの子は…とため息を吐く。
親子喧嘩をしているようなふたりに、汰絽は小さく笑った。


「風太、汰絽君とむく君を頼んだよ」

「わかってるって。…心配のしすぎはハゲの元だぞ」

「はいはい。汰絽君、風太の面倒、見てやってね」

風斗の言葉に汰絽は目を見開く。
それからくすりと笑って頷いた。


「ナマイキな…」

「じゃあ、風太。後は任せたよ。眠たいからそろそろいいかな」

「おう。今日中に出してくるさ。土曜にまた来る。たろ」

「はい。風斗さん、ありがとうございました」

汰絽は一礼してから風太の後ろをついて行った。
静かに病室を後にしてエレベーターに乗り込む。


「安心した」

「安心…?」

「おう。…なんていうかさ。俺、お前の答え聞く前から一緒に住む気満々だったから」

「え?」

「マグカップ。同じ種類の色違い、みっつ買っちまったんだよ」

照れるように首元をさすりながら言う風太に、汰絽は目を丸くさせた。
それから、風太がマグカップを選ぶ姿を想像して思わず笑ってしまう。


「…ふふっ、なんか嬉しいです」

「それは良かった。…使ってくれよ?」

「はいっ」

話しているうちに、玄関ホールに着いた。
いつの間に連絡していたのか、表に出ると夏翔の車が停まっている。
車に乗り込むと、夏翔がおつかれ、と声をかけてくれた。
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