無気力さはあきらめ?
二時間ほど授業をさぼり、そのままむくを迎えに玄関へ向かった。
杏と別れ風太とふたり、教師に見つかることなく学校を抜け出す。
幼稚園に着けば、風太を見つけたむくが嬉しそうに駆けてきた。
「先生、さようなら」
先生に挨拶してから幼稚園を後にする。
むくの右手を風太が握り、左手を汰絽が握った。
小さな手がぎゅっと握られて、汰絽は微笑んだ。
「春野先輩、夕飯食べていきませんか?」
「おう。おじゃまする」
「ふうた、ごはんいっしょ?」
「一緒だ」
「やったー!!」
嬉しそうにはしゃぐむくの手がゆらゆらと揺れる。
風見鶏が見えてきて、少しだけ早足になった。
手を洗ってね。
そう優しい汰絽の声が聞こえて、むくが大きく頷く。
風太も返事をして、家の中に入った。
「夕飯、何?」
「ビーフシチューにしようと思ってます」
「おお、楽しみだ。何か手伝おうか?」
「…ジャガイモとか切れますか?」
「なめんなよ。それくらいできる」
「ふふ、じゃあ、お願いしますね」
笑いながら冷蔵庫から食材を出す汰絽を見つめる。
ほわほわとゆるい笑顔は周りを温かくしてくれるようだ。
汰絽から食材を受け取り、包丁とまな板に向かう。
「むく、なにしたらいいの?」
「んー、アニメみる?」
「みるー!!」
エプロンで手を拭いた汰絽がDVDのセットをしている間に、手を動かす。
トントン…と心地よいリズムでジャガイモを切っていく。
戻ってきた汰絽は風太の慣れた手つきに目を見開いた。
「料理、上手じゃないですか」
「あ? …ああ、まあ。面倒くさいから普段コンビニ」
「体に悪いですよ?」
「心配する奴がいねぇから、別に…あんま、」
隣から視線を感じて、そちらを向く。
じとっと見つめる汰絽の表情は恨めしそうだ。
そんな汰絽に風太は軽く笑い、火、危ないだろと声をかけた。
風太の笑みからは何も読み取れない。
時々感じる、風太の無気力さ。
どこか諦めのように感じるそれに、汰絽は眉間にしわを寄せた。
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