イチゴジャム

コンクリートの上で目を瞑っている風太を眺める。
風がさらさらと揺らす白い髪と金色の睫毛がきらきらと輝いた。


「春野先輩、午後出ないんですか」

「…そのつもり、だけど?」

「僕も一緒してもかまいませんか?」

「お前…授業さぼったりするのか」

「たまにですが」

「そうか。意外だ」

「よく言われます」

そう言って笑った汰絽に、風太も軽く笑った。
弁当箱を片付けた汰絽は、ブレザーのポケットをあさる。
ポケットの中からは袋詰めされたクッキーが出てきた。


「なんだ、そのクッキーは」

「昨日作ったんです。食べますか?」

「食う」

袋を開けて、クッキーを手に取った。
真ん中にイチゴジャムがのっている。


「甘い」

「甘いの苦手ですか?」

「ああ、あんまり。…だけど、これはうまい」

「ありがとうございます」

汰絽が照れたように優しい笑みを浮かべた。
袋からもう一枚クッキーを取り出して食べる。
優しい味が口の中で溢れた。


「お前、洋菓子も作れたんだな」

「家事全般ならなんでもできます」

「すげー。いまどきの女子よりも女子力高いな」

「そうですか?」

「おう。嫁に欲しいぐらい」

「…オヤジ臭いですよ」

「うるせー」

風太の発言に驚きながらも軽く笑う。
口に含んだクッキーの味にほんのりとする。
チャイムの音が聞こえてきて、好野が立ち上がった。


「よし君、午後出ない」

「了解。ノート取っておくな」

「うん。お願いします」

好野がひらひらと手を振るのを見ながら、汰絽はフェンスに背中を預けた。
寝息を立てそうな風太の様子を眺める。
男らしい喉仏がうらやましい。
まだ声変わりをしていない汰絽にはないものだ。


「汰絽ちゃんってさぼったりするんだねー」

「たまにですよ?」

杏に尋ねられて、風太に答えたように答える。
それから杏の方を向いた。
ピンク色の髪が後ろで束ねられている。


「よし君は逆にまじめさんなんだね」

「僕よりは。…よし君、チキンさんなんで」

「ふふ、たしかに。…汰絽ちゃん、俺、席はずそうか?」

「いえ、構いませんよ? …むしろ、僕がここにいてもかまいませんか?」

「優しいなー、ありがとう。…汰絽ちゃんもここにいてよ」

杏がそう言って笑うのをみて、汰絽はこくんと頷いた。
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