奪われた卵焼き

「寝ちゃうんですか?」

寂しそうな声が聞こえてきて、風太は目を開けた。
可愛らしい甘えたな声。
覗きこんできていた汰絽の瞳が、うるうるとしていた。


「泣いてるのか」

「ん、いえ、…目にゴミが…」

「とってやる」

そう言いながら起き上がる。
目をこすろうとしている汰絽の顎を捕まえて、上を向かせた。
頬が赤く染まった汰絽を気にせず、風太は顔を近づけて、猫のような目を覗き込んだ。
どうやら睫毛が抜けて、目の方に入り込んでいたようだ。


「痛いか?」

「少し…。と、取るなら、早く、してください」

「おう」

目に入ろうとしている睫毛を指先でそっと摘まんで取り除けば、大きな瞳から涙がこぼれた。
綺麗だ、と思った涙がぽろぽろと落ちる。
その涙を指先で拭えばほっとする声が聞こえた。


「ありがとうございます」

「ああ。…杏達遅いな」

「そうですね」

汰絽が頷くのと同時に、扉が開いた。
杏と好野が楽しそうにはいってきて、おっまたせーと元気な声が飛んでくる。
陽気な様子に眉をひそめた風太に、汰絽はこっそり笑った。


「遅かったな」

「はるのんのご飯をコンビニに買いに行ってたからねー」

「そうか」

杏からコンビニの袋を受け取り、中身を確認する。
幕の内弁当が入っていて、風太は杏に小銭を投げた。
汰絽は好野から鞄を受け取って礼を告げる。
受け取った鞄の中から取り出した弁当箱を開いた。


「卵焼きもらい」

その声とともに、綺麗な形の卵焼きが奪い去られた。
ひょい、と形のいい口の中に消えて行った卵焼き。
汰絽は驚きながら風太の方を向いた。


「あー!!」

「今日はだしか」

「…楽しみにしてたのにっ」

「こっちのやるよー」

「むぐ」

幕の内弁当に入っていた卵焼きを突っ込まれてむぐむぐと頬張る。
だし味のそれは美味しかった。


「汰絽の作る奴の方が美味しいかもな」

「どうでしょう。普通に美味しいですよ」

「へえ」

そんな風に会話していると、弁当が減っていく。
一番最初に食べ終わった風太はごろりとコンクリートに寝転がった。
次に食べ終わった杏は携帯を開いて、好野とふたりにやにやしている。
好野も食べ終わり杏の携帯を覗いているうちに、汰絽も朝食を終えた。
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