むく
そっと目を伏せた風斗の様子を、静かに眺めていた。
金色の髪が揺れて、頬を撫でる。
すっと通った鼻筋、切れ長の青い瞳、形の良い唇。
風太のひとつひとつのパーツを思い出して、照らし合わせると思っていたよりも風斗とよく似ている。
「春野先輩は、風斗さんに似てるんですね」
「うん。よく言われるよ。あの子は私とそっくりだからね」
「はい。でも、春野先輩に言われるまで気づかなかったです」
「そっか。でもよかった、風太が汰絽君を見つけることが出来て」
風斗が安心したようにそう言い、汰絽もこくりと頷いた。
もう二度と会えないのではないか、と思っていた人と再会できてとても嬉しい。
「むく君は、とても聞きわけの良い子だね」
「…いえ、あの」
「うん?」
「風斗さんが来なくなって、おばあちゃんが死んじゃってから、むくの聞きわけのよさに拍車がかかったんです。したいこととか、してほしいこととか、全部我慢しちゃって…」
「あぁ、あの子は優しい子だからね」
「はい…。でも、この前、初めてわがままを言ってくれました」
わがまま? そう言って首をかしげた風太に小さく笑う。
あの時の、むくの少し諦めたような顔を思い出した。
「ゆうちゃんとお泊りがしたいって言ってくれたんです。それから、春野先輩とも」
「そっか。…むく君も、少しずつ変わっていけばいいね」
「はい」
風斗にまた頭を撫でられて、笑う。
それから、そっと風斗を見上げた。
「風太に嫌なことされてない?」
「されてないです。春野先輩、とっても優しい人です」
「そうか。あの子は素直じゃないからね」
「そうですか…?」
風太を思い出して、首をかしげる。
とても大人で、汰絽にとってはうらやましいくらい格好良い。
そんな風太を子供扱いする風斗が面白かった。
「急に連れてこられて、びっくりした?」
「少しだけ」
「そうだよね」
そう答えながら窓を見る風斗につられて、汰絽も窓を見た。
青空が広がっている。
きらきらと太陽が輝いていた。
「あ、汰絽君。ごめんね、風太の荷物、とってくれる?」
「はい」
その頼みに、汰絽はすぐに鞄を手に取った。
風斗の膝にそれを置いて、もう一度腰を下ろす。
鞄の中を漁って、封筒のようなものを取り出した。
「アンリさんから私が君たちの傍にいてほしいって頼まれたって、聞いたかな」
「はい、」
「それね。もっと書類的なお願いもされていたんだ」
「書類的な…?」
こてんと首をかしげた汰絽に、小さく笑って風斗は封筒の中身を取り出した。
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