葉桜
「汰絽君、学校はどう?」
「楽しいですよ」
「勉強は?」
「楽しいです。中学の時よりも、ずっと」
「そっか。良かった」
にっこりと微笑んだ風斗に汰絽も小さく笑った。
昔と変わってない、優しい笑顔がとてもうれしい。
白い病室の中で、風斗が元気そうで、とても、よかったと思う。
「風斗さん、おばあちゃんね…」
「うん」
「おばあちゃん、とても幸せそうでした」
「そっか。良かった。アンリさんは、幸せ者だね」
「うん…」
ぽんぽんと、風斗の大きな手が汰絽の頭を撫でる。
むくも撫でてほしいのか、風斗のベッドに靴を脱いで乗り上げた。
ちょこんと隣に座ったむくの頭を撫でて、もう一度微笑む。
「あと、むくはお友達できて、僕は今もよし君と仲良しです」
「そっか。むく君のお友達と会ってみたいな」
「ゆうちゃんね、とてもやさしいの! 風斗もだいすきになるよ、きっと!」
「優しい子、ね。そうだね、私も仲良くできそうだ」
「うんっ」
そう言って、むくの頭を撫でる。
ふわふわの蜂蜜色が揺れて、汰絽は小さく笑う。
風斗の大きな手で撫でられるのは、汰絽も好きだ。
むくも同じなのか、嬉しそうにしている。
「汰絽君も、むく君も…、良かった。良かった」
風斗の安心したような声に、汰絽は小さく息を吐き出した。
話したいことも、風斗に見せたいものも、たくさんある。
あふれ出しそうな言葉に蓋を被せて、窓の外を見る。
葉桜に変わった桜が目に入った。
「風太」
「あぁ」
ちらりと風太を見て、風斗が彼を呼んだ。
風太は返事をして、壁に預けてた体を起こす。
それからむくの傍に来て、蜂蜜色を撫でた。
「むく、向こうに庭があるから、遊んでこよう」
「…、たぁちゃんは?」
「汰絽君と話したいことがあるから、いいかな」
「…うん」
風太に抱えあげられたむくは、不安そうに汰絽を見る。
大丈夫だよ、と汰絽が微笑んで、こくりと頷いた。
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