おっかない

「きょろきょろしてる」

風太に言われて、自分がきょろきょろとあたりを見渡していたことに気付いて、頬を押さえた。
大きな病院で、まるでホテルのような内装を見渡してしまうのは自分だけではないと思う。
そう心の中で思い、汰絽は首を振った。


「病院あんまり来ないのか」

「はい。むくも僕も元気ですから」

「そうか」

風太が笑ったのを見て、汰絽は頬がさらに赤らむのを感じた。
エレベーターの前で待っていると、風太がむくの頭を撫でる。


「むく、どうした。元気ないな」

「ううん。おっきいとこ怖い」

「おっきいとこ?」

「うん、ひとりぼっちになったら怖い」

「ひとりぼっちにならない。大丈夫だ」

風太の顔を見上げたむくを見て、汰絽は微笑んだ。
むくはもともとは人見知りの激しい子で、無理して付き合ったりすることが多い。
そんなむくが、よく懐いているのを見ると、風太が優しくていい人だということがよくわかる。
エレベーターが音を立てるのを聞いて、3人は乗り込んだ。


「おっかない」

「エレベーター、おっかないね」

「おっかない?」

「怖い、って」

「ああ、俺も子供のころは怖かったな」

「ふうた、今おっかないくない?」

「ああ。むくも大人になれば怖くなくなるよ」

風太に頭を撫でられて安心したのか、むくが小さく微笑んだ。
エレベーターが鳴り、風斗の病室のある階についた。
部屋へ向かうまでに、看護師さん達がむくに手を振ってくれる。
むくはそんな看護師さん達に手を振り返した。
風斗の病室についたのか風太が足を止めた。

春野風斗。


「個室、ですか?」

「まあな。親父、意外と神経質だから」

「そうなんですか」

風太が苦笑するのを見て、汰絽も同じように笑った。
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