温かい
「俺は休日になると杏とか、夏翔とかと遊んでたからあんまり気にしてなかったんだけど、休みのときはお前の所に行ってたんだな」
「そうですね…。よく家に来てくれました」
「そうか。…お前のこと、すごく可愛がってたからな。俺がお前を探してた話をしてもいいか」
「はい、聞きたいです」
こくりと頷いた汰絽に一息ついてから、風太は話しはじめた。
優しい顔をした風太の顔は、写真の中の風斗とよく似ている。
「お前のばあさんが先が短いことを、ばあさんから親父は聞いた」
「おばあちゃんが、風斗さんに?」
「ああ。親父がそう言ってたからな。先が短いから、自分が死んだら、汰絽とむくの傍にいてほしい。そう頼まれたって」
「おばあちゃん…」
寂しそうな表情をした汰絽の背中をそっと撫でた。
写真立てには祖母は入っていない。
けれど、祖母の優しい顔を思い出すと、時々寂しくなる。
「親父がさ、タイミングが悪いことに、同じ時期に体調を崩し始めたんだよ」
「…、あ、それで、あの時から、来る日が減ってきてたんですね」
「ああ。で、2月に倒れて手術室行き。それから回復するまで結構かかってさ」
「…」
「で、寝込んでる間にさ、戯言のように何回も何回も、お前の話をするんだよ。名前とか重要なところを言わない癖に、どこにいるんだ、寂しくないのか、ってうんうんと」
「…風斗さん」
写真立ての中の風斗に恨みをぶつけるようにトントンと叩く。
風太の表情を見ると、優しいことに気付いて、汰絽は軽く笑った。
「まあ、今じゃぴんぴんしてるけどな。ぴんぴんしてるくせにお前の名前とか教えてくれねえ。そんでもって、お前を探し出せって言うから、何度殺そうかと思ったか…」
「物騒な…。手がかりなしで…?」
「まあな。ヒント出してもらたんだけど、そのヒントが俺と同じ高校ってだけ」
「…すごい、けど、」
けど…と首をかしげた汰絽に軽く笑う。
それからふわふわの蜂蜜色を撫でた。
「お前に声をかけたのは、偶然。すれ違った時、少し話してみたくなったんだ」
「そ、それだけ…?」
「ああ。頭に花弁付けて、寂しそうな顔してるの見たらな。…それに、お前の隣は温かそうだったし」
「あたたかそう」
「そうだ」
風太の言葉に、汰絽が嬉しそうな表情をした。
そんな汰絽の顔に、風太も心が温かくなるのを感じる。
風太が求めていた温かさは、この温かさだ。
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