本当の姿

「悪い、急に。でも、本当にお前でよかった」

「あの、どういうことですか…?」

「この人こと、どれくらい知ってる?」

風太に尋ねられて、汰絽は思い出す様にんー、と小さく声を漏らした。
その間に風太は写真立てを手に取り、優しい顔をした男を見る。
風太が長いこと見ることのできなかった表情だ。


「名前と、職業と…僕よりふたつ年上のお子さんがいることしか…」

「そうか」

「あの、」

「ああ、悪い。…この人、俺の親父」

そう言って指先でトントン、と写真を叩いた。
急なことで処理し切れてなかったのか、汰絽がぱちぱちと瞬きをする。


「え? …春野先輩が、風斗さんのお子さんってことですか」

「ああ。親父、2月頃倒れてさ」

「え!?」

「いや、命に問題はなかったんだけど」

「そ、そうですか…!」

ほっと安心した汰絽が風太をまっすぐに見つめた。
どこか探るような目付きに、風太も汰絽を見返す。
じっと見つめ合っていると、汰絽が小さく笑った。


「確かに、風斗さんに似てますね、目元とか…口元も」

「そうか?」

「はいっ」

嬉しそうに笑みを浮かべた汰絽は、そうですか、ともう一度呟いた。
古い思い出を思い出す様に写真立てを見つめる。


「俺がさ、14の時にな。親父が仕事で俺と年の近い子の事故を担当したって聞いた」

「それが、僕のこと…ですか?」

「ああ。よくお前のこと話してくれたよ。その時は、俺もちょうど色々あって、親父とあんまり会話しなかったんだ。でも、唯一、お前の話のときだけは親父と喧嘩することもなく会話できた」

風太に苦笑しながら頭を撫でられて、汰絽も思わず笑う。
風斗が昔話してた、ヤンチャな息子はこの人なのか、そう思うと、不思議な気がした。


「俺の話は、また今度する」

「はい、今は…」

「ああ。お前の話をする親父は俺と居る時よりも楽しそうだったよ。…まあ、俺もお前の話を聞く方が楽しかったしな」

「いえ…」

良く分からないけれど、頬が少しだけ熱くなった。
懐かしい風斗の姿を思い出せば、少し嬉しくなった。
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