そっくりな人

夕食もお風呂も終えて、後は寝るだけになった。
テレビのにぎやかな音だけの部屋で、むくはうとうととし始める。
ソファーに腰を下ろした汰絽はむくの頭を膝に乗せた髪を撫でていた。


「さっきさ、言ってた俺にそっくりな人の話、聞いてもいいか」

「あ…、はい。その前にむくを寝室で寝かしてきてもいいですか」

「おう。待ってる」

むくを抱えて、背中をトントンと撫でている汰絽が立ち上がり、寝室へ向かう。
リビングでひとりになった風太は、写真立てのほうを見た。

左側から、家族の写真、祖母とむくと汰絽の3人の写真、最後はむくと汰絽のふたりだけの写真になる。
どれも幸せそうな表情をしていた。
ひとつだけ、倒された写真立てに目がつく。
先ほどは気付かなかった。
ゆっくりと立ち上がって、写真立てに触れる。


「春野先輩?」

「あ、悪い」

「その写真、」

汰絽が目を伏せて、その写真を手に取った。
少し付いた埃を指先で払い、微笑む。
座りませんか、と促されて、ソファーに戻った。


「さっきの、お話してた方と撮った写真です」

そう言って、写真を表にする。
そこに写っていたのは、良く知っている顔だった。
小さなむくを抱えて、汰絽の肩に手を回している。
優しく微笑んだ顔は、良く知っている。


「僕の両親が事故に会った時に担当してくれた刑事さんです。春野、風斗さん」

「…っ」

「あ、春野先輩とおんなじ苗字ですね」

「…たろ、この人と、いつまで会ってた?」

「え? えっと、祖母の葬式をする前までです。…えっと、推薦入試の時かな」

「2月…、一致してるな」

「春野先輩?」

風太が唖然とした表情をしているのを見て、汰絽が首をかしげた。
写真を見つめて、口元を押さえる。
もう一度春野先輩、と呼んだところで、風太が口元から手を離した。


「お前だったんだな」

「え? 春野先輩、なに…」

「お前でよかった」

再度そう言って、風太の腕が伸びてきた。
ぎゅっと抱きしめられて、目を白黒させた汰絽は驚いたように写真を落とす。
写真立てがゴトン、と音を立てた。
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