優しい涙

「その後、僕とむくは祖母に引き取られました」

「あの写真の?」

「はい。僕は、あの事故のことは忘れられない。でも、それでも、今、幸せなんです」

隣の小さな汰絽の震えが伝わってくるようで、風太は思わず汰絽の肩を抱いた。
自分よりうんと小さい汰絽。
温かい体温が伝わってきて、風太は目元が熱くなるのを感じた。
見られたくなくて、思わず顔を俯ける。


「…泣いてるんですか?」

「あー、見んな」

「泣いてる」

クスクスと小さく笑う汰絽の指先が伸びて、風太の目元をくすぐった。
汰絽に抱きついていたむくは、いつの間にか風太の膝に上っている。
小さな手がいいこいいこをするように頭を撫でてくれた。


「春野先輩は、優しいんですね」

「うるせぇ」

「僕は、幸せです。あなたみたいな人と出会えて」

「…俺も」

「あなたは、僕を救ってくれた人にそっくりです。優しい、涙」

懐かしむような声。
顔を上げると、汰絽が微笑んだ。


「先に夕飯にしましょうか。作ってきますね」

「あ、」

「春野先輩、むくとお風呂お願いしてもいいですか?」

「…おう。たろ、」

「はい?」

大丈夫なのか。

そう聞きたかった。
口から出た言葉はなんでもない、だけで、尋ねることはできなかった。
人を思って泣いたのなんて、ずっと昔に一度きりだったから、やけに気恥ずかしい。
むくを抱えて、風呂場に向かった。
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