いい子へのキス
寝室に入り、クローゼットから布団を取り出す。
布団を取り出したところで、汰絽はあっと、声を上げた。
「むくと、僕の分しかない…!」
クローゼットから取り出したむくと汰絽の布団。
普段、むくはもう一枚の布団でなくて、汰絽と一緒の布団を使っていた。
そのもう一枚は、むくにはまだ大きくて使っていなかったものだ。
祖母と一緒に住む時に、すぐに大きくなるから、大きいのを買おう、と買った布団。
「むくとゆうちゃんはいいとして…、春野先輩、どうしよ」
そう呟いたところで、たろ、と呼ぶ声が聞こえた。
「どうしたんですか?」
「結之がのぼせた」
「え? わ、わ、大変っ、ゆうちゃん、大丈夫?」
風太の声に風呂場に行ってみると、結之が真っ赤な顔をしている。
急いでタオルで結之を包み、リビングへ向かう。
「ふらふらするね、冷やすの持ってくるから、横になろっか」
結之をソファーに横たえて、冷やしたタオルと冷水を取りに行く。
コップに水を汲み、ソファーに戻る。
結之をそっと起こして、水を飲ませてあげた。
落ち着いたように、ふう、と息を漏らす結之に、ほっと息をつく。
「どう、ちょっと楽になったかな?」
「うん…」
「もうちょっと冷やそうね」
結之を頭を膝の上に乗せて、冷やしたタオルで顔を拭く。
熱かった頬は、ゆっくりと元の体温に戻っていった。
「ゆうちゃん、へいき?」
「むく、上がったんだね」
「うんっ。お風呂たのしかったー」
「楽しかった? 良かったね。あひるさんといっぱい遊んだ?」
「うんっ。あのね、たあちゃんっ、ゆうちゃんのパジャマもってきたよ!」
「あっ、むく…! いい子だね」
誉めて、と嬉しそうな顔のむくの頬にキスをして、頭を撫でる。
結之もむくが戻ってきて元気を取り戻したのか、ゆっくりと体を起こした。
すぐに着替えて、ちょこんとソファーに座る。
「ゆうちゃん、お着替え上手だね」
「…おりこう?」
「うん、ゆうちゃんもいい子だね」
ゆうのも、ほっぺ、と頬を差し出してきた結之に笑い、汰絽は結之の頬にもキスをした。
嬉しそうな結之の頭を撫でて、むくも隣に座るように言う。
湯冷めしないように、頭をタオルで拭いてあげた。
「たろ」
「あ、お疲れ様です」
「いや。…結之は元気か? 風呂が楽しかったみたいで、気付いたころにはのぼせてた。悪い」
「いえ。大丈夫ですよ。よくむくものぼせるので…。お風呂入れてくださり、ありがとうございます」
「おう。…お前は風呂は?」
「あ、入ってきます」
「じゃあ、俺が髪乾かしとく」
「お願いしますね」
汰絽からタオルを受け取り、むくと結之の真ん中に座る。
最初にむくの髪をわしゃわしゃとタオルで拭いた。
次に結之を膝に乗せる。
「大丈夫か?」
「うん。…ごめんなさい」
「いや、元気ならいいさ」
こくん、と頷いた結之に、風太は小さく笑った。
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