よし君の一番

「よし君? どうしたの」

『おう。…いや、少し心配になってさ』

「何が?」

『何かされてないか? …殴られたり』

「してません!!」

汰絽が大きな声をだしのを電話越しで聞き、好野は微かに笑った。
その笑い声を感じた汰絽は頬を赤く染める。


『それを言うなら、されてない、でしょ。良かった』

「よし君、春野先輩そんな人じゃないの。優しくて、かっこいい、人」

『まあ、うん。わかってるよ。噂を信じるなってね。…わかってるけど、確認だよ』

「そう…? あのね、春野先輩、すっごく優しいの」

汰絽の熱のこもった声に、好野はうん、と答えた。
久しぶりの親友の嬉しそうな声は、好野にも喜びを与える。


「コップ運んでくれたり、アイス買ってきてくれたり…。あのね、むくとゆうちゃんをお風呂に入れてくれてるんだよ」

『へえ、…良い人なんだな』

「うん。あ、よし君は、あん先輩と一緒に帰ったの?」

汰絽の言葉に好野ははっと息を飲んだ。
どうしたの、と問いかける前に、好野が興奮したように話し出す。


『そうそう! 前にさ、俺の好きなアニメ教えたでしょ?』

「うん。みらはでしょ?」

『うん。その話したんだよ。杏先輩、すっごく詳しくてさ。久しぶりに話しこんじゃったよ!』

「ふうん…。よし君」

『ん?』

汰絽が黙りこんで、好野はなんだよ、と笑う。
そんな好野に聞こえないくらい小さな声で汰絽は呟いた。


「よし君、よし君の一番は、僕なんだからね」

『お? どうしたー』

「別にっ。よし君は僕の一番の親友だって言ってるの!!」

『そ、そう? 汰絽がデレたーっ』

「デレてないもん!! あっ!」

『ん?』

「お布団しかなきゃ!! もう切ってい?」

『うん、いいよ。汰絽』

「なあに?」

『俺もお前が一番だよ。おやすみな』

「う、うん!! よし君、おやすみ!!」

好野が先に電話を切るのを聞いて、汰絽も子機を下ろした。
心がほかほかしてる。
温かい気持ちを抱えながら、汰絽は寝室へ向かった。
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