うちのお風呂はそんなに広くありません

「あ。…泊まるって言ったのはいいんだけど、着替えあるか? 近くに服屋とかある?」

「ショッピングモールなら、自転車で行ける距離に…。自転車貸しましょうか?」

「頼む」

「はい。あの、僕…」

「大丈夫。携帯あるし。ちょっくら行ってくるわ」

「はい、じゃあ、自転車出しますね」

おう、と返事をして、汰絽の後ろを歩いた。
玄関を出て、隣の扉を開くと、広めの自転車置き場があった。
自転車1台と、バイクが隣に置いてる。


「アイスとかなんかいる?」

「そんな、悪いですよ」

「俺が食いたいだけ。むく達はもう寝る時間か?」

「まだです」

「わかった。すぐ帰ってくる」

「はい。いってらっしゃい」

自分よりも低い位置にある頭をポンポンと撫で、風太は自転車を出した。
玄関で手を振ってる汰絽に手を振り返して、暗い夜道を進む。
ショッピングモールには携帯でナビをしなくてもすぐに着いた。
一番手頃な店に入り、スウェットと必要なものを買い込む。
それから、食品売り場でアイスを眺めた。
春にはまだ早いか、と思いつつも、眺めていると、どれもよさそうに見える。


「どれにすっかな…」

単品のアイスよりも、箱アイスのほうに目が行ってしまい、風太は箱アイスをふたつ手に取った。
ひとつは幼稚園児でも食べやすいようなチョコとバニラのソフトクリーム。
もうひとつは、何種類ものフルーツのアイスが入ったもの。
素早く会計を済ませて店を出る。
むくと結之の喜ぶ顔を思い浮かべて、風太は口角を上げた。

自転車を先ほどの場所に戻し、玄関をくぐる。
ただいま、と言うのも少しおかしい。
汰絽、と声をかければ、バスタオルを持った姿が見えた。

「お帰りなさい。早かったですね」

「お…、おう。アイス、冷凍庫に入れてくれ。…風呂、入ったのか?」

「いえ。これからむく達と入ろうかと思ってて…。先輩、先入りますか?」

「ふうたっ、どこいってたのー!!」

「ちょっとな。ほら、アイス」

いや…、と答える前に、むくが駆け寄ってきた。
それからきゅっと汰絽の足にしがみつき、風太を見て笑みを零す。
可愛らしい笑みに風太も笑い返し、靴を脱いだ。
結之はトイレに行っていたのか、3人がリビングに戻る時にやってきた。
むくと結之と一緒に冷凍庫にアイスを入れに行く。
嬉しそうなきらきらとした笑みに、風太は笑った。


「ゆうちゃんっ、アイスだってー」

「アイスだねー」

「むく、ゆうちゃん、先お風呂だからねー」

「うんっ。ね、ふーた! むくね、ふうたとおふろ、入りたい。いい?」

「おう。いいぞー。結之も入るか?」

「うんっ」

風太のもとにかけて行ったむくに、汰絽は苦笑した。
それからアイスをしまい終え、風太のほうを向く。


「すみません、お願いしますね」

「おう。お願いされた。…お前も入るか?」

「うちのお風呂はそんなに広くありません」

風太のお誘いをきっぱりと断り、持っていたバスタオルをむくと結之に渡した。
それから、汰絽はもうひとつタオルを綺麗に畳、風太に渡す。


「むく、お風呂まで案内できるよね?」

「うんっ。たあちゃん、あひるさんいい?」

「いいよ。でもいっぱいはだめ。ゆうちゃんと一緒に遊べる?」

「うんっ。おっきいのふったつにする」

「うん、良い子。じゃあ、行ってらっしゃい」

むくと結之は、風太に抱っこしてもらい、風呂場に向かう。
そんな3人を笑顔で眺めていると、電話がなっているのが聞こえた。
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