違和感
「ただいまー!」
「ゆうちゃん、春野先輩、どうぞ」
「おじゃまします」
「おう、おじゃまします」
汰絽に進められて、結之と風太は後から家に入った。
玄関には、小さな可愛らしい置物が並んでいる。
靴をちゃんと揃えて入るむくに、感心しながら、風太も家に上がった。
「むく、おてて洗ってね。ゆうちゃんも、むくと一緒にね」
「はあい」
「むくちゃんまって」
むくの後ろをついていく結之を見て、汰絽が笑みを零す。
ほっと息をついて、玄関のかぎを閉めた。
「たろ、俺は?」
「…?」
「いや」
「おててあらいますか?」
「ああ。たろも洗おうぜ」
風太に頷いて、洗面所へ向かう。
むくと結之は手を拭いて、リビングへ向かっていった。
さらさらと流れるお湯に手をつけて、石鹸を泡だてて、綺麗に手を洗う。
タオルを風太に渡して、手を拭いた。
リビングへ戻れば、むくと結之はソファーでじゃんけんをして遊んでいる。
そんな微笑ましい光景になごみ、汰絽はリビングと繋がったキッチンへ向かった。
「夕飯なに」
「ん、と。グラタンにしようかと…。先輩、グラタン大丈夫ですか?」
「平気。手伝おうか?」
「いえ。むくとゆうちゃんと遊んでて下さいな」
ダイニングキッチンでエプロンをつけている汰絽の後ろ姿を見て、風太はむくと結之のそばに腰を下ろした。
むくと結之はすぐに風太の膝の上に座って、きゃっきゃと楽しそうにする。
思わずそんなふたりに笑い、風太は汰絽に視線を移した。
優しい、温かそうな小さな背中。
たんたん、と野菜を切るリズムを耳に、風太は気持ちが穏やかになるのを感じた。
普段はこんなに穏やかな気持ちになることなどない。
どこか冷え切っていて、小さな違和感を感じていた。
この穏やかな気持ちに、風太は軽く笑った。
「まったく、似合わない…」
風太の呟きに、むくが顔を上げた。
どうしたの?
不安そうな表情に、風太はなんでもない、と笑った。
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