お迎え

お昼休みの最後、いつも一緒に帰っているのに、放課後は玄関で待ってて、と言われた。
まるでそれが、放課後デートのような新鮮な気持ちにさせられる。
好野も杏と約束しているのか、ふたりは玄関で先輩達を待っていた。


「…本当に、一時はどうなるかと思ったけれど、思ったよりも展開が早くてよかった」

「うん。…まさか、お付き合いすることになるなんて、思わなかったよ」

「俺はこうなると思ってたけどな。…汰絽、大丈夫か。不安じゃない?」

「幸せすぎて、怖いくらいだけど…。不安じゃないよ、よし君」

顔を覗いてきて笑った顔が幸せそうで、好野はほっとする。
少しだけ寂しいような気持ちを感じながら、好野はポケットに入れた携帯が震えるのを感じた。
汰絽に断りを得てから携帯を開くと、杏からの着信ですぐに通話ボタンを押し耳に当てる。


「ごめん、汰絽。杏先輩が先生から頼まれごとされちゃったみたいだから手伝ってくる」

「うん。よし君、バイバイ」

「バイバイ、汰絽。また明日な」

手を振り合ってから、好野が杏の元へ行く姿を眺めて、壁に寄りかかった。
まだかな、と足をパタパタとさせる。
携帯を手に取ってにゃんこさんを眺めた。
お揃いで買って、一緒につけたぬいぐるみはゆらゆらと揺れて、思わず笑みが零れる。


「たろー」

名前を呼ばれ顔をあげると、風太が手を振っている姿が見えた。
携帯をポケットに入れて、手を振り返す。
傍に来た風太は汰絽の頭を撫でて、目線を合わせた。


「にゃんこさん見てたな」

「お揃いだなって、思ったら、嬉しくて」

「そうだな。むく、迎えに行くか」

風太の優しい笑みに心が温かくなる。
こくりと頷いてから、玄関で別れた。
理系科と文系科の下駄箱は別で少し遠くなっている。
いそいそと靴を脱いでローファーに履き替えてから、玄関を出た。


「なんで気付いたの、俺のことが好きだって」

校門を出たところで風太に尋ねられる。
穏やかな風に白い髪が靡いた。


「よし君と、特別な人ってどんな風な人なのか話してるときに…、風太さんが浮かんだんです」

ゆっくりと話す汰絽は、恥ずかしそうに手をぎゅっと握る。
風太の顔が見れなくて、俯きながら歩いた。


「おっきな手とか、笑うとくしゃってなる顔とか…。手をつないだり、キスしたいとか、いっぱいいっぱいになって、…風太さん?」

黙っている風太に、どうしたんだろうと顔を上げる。
口もとを押えそっぽを向いている風太に首を傾げ、顔を覗こうと腕を掴み引き止めた。


「くっそ…、お前な、可愛いこと言うなよ、柄にもなく赤くなりそうだ」

「風太さん、もう真っ赤です」

「うるせー」

「照れてる」

トン、と風太の腕にぶつかって、くすくすと笑う。
すると、風太の大きな手が汰絽の髪をわしゃわしゃと撫でた。
認めてよかった、あふれ出してよかった、って心の中で思い、汰絽はきゅっと口を閉じる。

幼稚園に入ると、むくが駆け寄ってきた。
傍に来たむくは汰絽の足に抱き付いて抱っこをせがんでから風太を見る。
じっと風太を見たむくはにかっと笑った。


「風太だー」

「風太だぞー」

むくの頭を撫でると、何かついている。
そっとそれを取ると、きらきらの紙がついていた。


「これなんだ」

「きらきらー! ばあってしたの」

「ばあ?」

「いっぱいきらきらつくって、ばあーした」

うんと手を回したむくになるほど、と頷く。
きらきらの紙をたくさんつくって、ぶわっとまいたようだ。
先生は後片付け大変だったろうと思わず苦笑する。


「帰るかー」

「はーい」

秋の香りを感じながら、3人は家路についた。
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