風太もんまー?

可愛い扉を開けた風太は、肩で息をしながら汰絽達の近くにやってきた。
それから拳を握り、こつん、と汰絽の頭を叩く。


「たっ」

「お前な〜っ…、はァっ、はァっ」

「わわ、風太さん、お水…」

「サンキュ…じゃなくて、お前なぁ、前にこいつに嫌なことされたら近づくなよ…。心配した」

壱琉の隣にドカっと座った風太は、ぎっと汰絽を睨み付ける。
睨まれた汰絽はしゅんと縮こまって、風太にごめんなさいをした。
壱琉がくれた苺を頬張っているむくは、風太を見てもごもごと口を動かしている。
呑気な音楽が流れてきて、風太は大きくため息をついた。


「東条…、お前なにしてんだよ。人ん家のもん連れまわしてさぁ」

「別に連れまわしてなんかねえよ。な、汰絽」

「ま、まあ…」

「ふうた、んまー!!」

「ん? んまーか?」

スプーンを持って風太に手を振るような動作をしたむくに、嫌な雰囲気になっていた3人の気が抜けて苦笑してしまう。
汰絽はむくの手からスプーンを取って、口周りをウェットシートで拭いた。
風太は店員が持ってきた水を飲み、壱琉を睨み付ける。


「で、何の用」

「いや、幼稚園の近く通ったらたまたまむくの声が聞こえてきたから、遊んでたんだよ。そうしたら汰絽が迎えに来て、美味いもん食わしてやるってここに来た」

「たろっ、お前食べ物につられるなよ!」

「つられて…釣られてないとは言い切れないけれど…むう…」

むっと口を尖らせた汰絽は、じとっと壱琉を睨んだ。
壱琉はくすくすと笑い、汰絽の頭を撫でようと手を伸ばす。
しかしその手は汰絽に届く前に、風太によって叩き落された。


「おっと…、やきもちかァ?」

「うっせ」

風太と壱琉はぼそぼそと話し、それから汰絽をじっと見た。
当の汰絽は、美味しそうに苺を食べていたむくをにこにこと見守っている。
ふたりとも少し赤く染まっている頬が可愛らしい。


「たろ、食い終わったんなら帰るぞ」

「あっ、」

そう言った風太が伝票を手に取る。
汰絽は困ったように壱琉を見てから、ぺこりと頭を下げた。
むくは壱琉に手を伸ばしていちー、とかわいらしい声で壱琉を呼んだ。
それにこたえるように手を伸ばした壱琉は、むくの小さな手を握り、握手する。


「ふうたー」

「ん?」

「ふうた、んまーないないの?」

「んまー? むく、俺はんまーないないの。今日はいいよ」

そう言って、立ち上がった風太はむくを抱き上げる。
むくは少しだけ不服そうに頬を膨らませた。
壱琉にまた手を伸ばしている。
今度は壱琉も立ち上がってから、風太の隣に立った。


「俺が奢るって話なんだよ。春野、伝票」

「…ほらよ」

風太から伝票を受け取った壱琉は、むくの頭を撫でて、またな、と言ってからレジに並ぶ。
汰絽にはささっと帰れば、と告げた壱琉に、お礼を告げてから春野家は店の外に出た。
どこか怒った様子の風太に、汰絽はしょんぼりとする。

自分の中でもやもやとした風太への気持ちをはっきりさせたかっただけなのに、壱琉に聞いた話でなおさらもやもやし始めた。
これは、自分をよく知る好野に相談するべきなのかもしれない。
汰絽はそんな風に思いながら、少し暗くなり始めた空を見上げた。
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