真っ赤なおめめ
「幼稚園の先生が心配してるから、幼稚園に戻ろうな」
ぽんぽん、とふたりの頭を撫でてから、3人で幼稚園へ向かう。
むくは汰絽にぎゅっと抱き付いて、まだ嗚咽を漏らしていた。
真っ赤になった目を見ていると、目頭が熱くなって、汰絽はまた涙を流す。
「ごめんね」
汰絽の小さな声に、風太はぐっと拳を握った。
幼稚園につくと、幼稚園の先生が全員外に出てきて、風太と汰絽に頭を下げた。
すみません、と何度も謝る先生に、もう済んだことだから、と汰絽は鼻をすすりながら呟く。
先生はもう一度小さく謝り、風太を見た。
「…先生、お話聞かせてもらってもいいですか」
「はい」
「中に入りましょう。…温かい飲み物、用意しますね」
園の中に入って、教務室に入る。
温かい飲み物を貰って、汰絽はむくの真っ赤になった目元を冷やしたタオルでアイシングした。
風邪をひかないように、すぐにアイシングをやめて少し赤みが引いたのを見てほっとする。
むくの小さな手にマグカップを渡して、飲ませる。
「むく、疲れたねぇ。いっぱい歩いたもんね」
汰絽はむくの髪を優しく梳きながら、泣きそうな顔をした。
風太はそんな汰絽から視線を逸らし、先生から話を聞く。
「今日は結之君がお休みで、むく君は他の子と一緒にいたんです」
「そこで?」
「はい。そこで、むく君のご両親が居ないことで、周りが騒ぎ立てて、むく君、その時は何も言わずに僕のところに来たんですが、僕とふたりでお迎えを待ってる時に、園を出てったんです」
「…むくは、怒ったりしなかったんですか」
「はい。むく君は、怒ったりしないで、ずっと静かに耐えてたみたいです。僕が、そのことに気付けていれば、こんなことにならなかった。すみません」
先生の謝罪に、いえ、と答え、風太はむくの方へ視線を移した。
むくは汰絽をじっと見つめながら、マグカップの中のココアを飲んでいる。
真っ赤になっていた目は少しは色味が戻ったが、まだ泣いた痕が残っていた。
汰絽の指先が、むくの髪を撫で、頬を撫でる。
いつものむくだったら、汰絽に抱き付いて離れないのに、どこか遠慮しているようだ。
「すみません、明日はお休みしてもいいですか」
「はい…。すみません」
先生や園長に挨拶してから、むくは風太が抱え園を出た。
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